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もうひとつの古傷【HP】

第1章 Last summer vacation



 咄嗟に閉じた目を恐る恐る開くと、フクロウは案外近くにいた。襲われると思っていたが、フクロウにはその気がないらしい。よく見ると、口にはなにか咥えている。英語で書かれた手紙だ。封筒には・の名前がある。
 『…もしかして、私に?』
 問いかけに対する応えはないが、じいっと見つめるつぶらな瞳が肯定している気がした。ゆっくり手紙を持つと、その嘴もゆっくりと離れた。
 『あ、ありがとう』
 フクロウが手紙を届けるだなんて聞いたことない。にわかに信じ難いが、信じるしかない。
 茶色いフクロウは数歩私に駆け寄り、まだじぃっとこちらを見つめている。先程まであんなにビビっていたが、この子が襲わないとわかると、急に愛着がわき、自然に手が伸びる。思ったよりも柔らかい羽をそっと撫でると、目を細めて身を委ねてくれた。
 『さっきはびっくりしちゃって…ごめんね』
 自宅で手紙を届けてくれたフクロウを撫でる。なんとも不思議な光景だ。羽を数回撫でたあと、フクロウは満足したのか翼を広げて、窓から飛んで行った。

 フクロウの後ろ姿を見送ったあと、右手に持つ紙の存在を思い出す。
 『あ、そうだ。手紙…誰からだろう』
 日本では見慣れない手紙だ。赤い封蝋を開けると、また見慣れない単語がずらりと並んでいた。
 『ホグワーツ魔法魔術学校入学許可証…?』
 何かのイタズラだろうか。イタズラにしてはフクロウを使うだなんて、手がかかりすぎている。よくわからない手紙をもう一度封筒に戻し、引き出しの中に入れる。いろんなことがあったが、あまり考えないことにしよう。
 不思議な出来事に、頭がついていけない。緊張、興奮、不安…様々な感情が一気に訪れて、心臓の鼓動が大きくなる。この気持ちはなんなのだろうか。

 『えーと…宿題、宿題』
 気を紛らわすために、宿題を広げる。少しだけ指先が震えている気がする。額に浮かんでいる汗はきっとこの暑さのせいだろう。

 「ただいま〜。あら、このゴミはどうしたの?」
 おかえり、という間もなく、散乱したゴミを指摘する叔母さん。
 『あ〜…さっき蹴っちゃったの。今拾うね』
 フクロウが来て驚いて落としただなんてとても言えない。変な子ね、という声を聞こえないふりをして、ゴミを回収した。

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