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好きのベクトル【ヒプマイ】

第2章 DAY 1




少し肌寒くなった十一月の下旬、ざわざわと蠢く人達が通り過ぎていく桜通口前のロータリーに私、桐生なずなはいた。

昨日の夜鳴ったメッセージアプリの着信音。
それは泣き虫のビジュアル系バンドのボーカリストからで。

「なずなさん、明日チーム会議っすけど来ますか?」

文章を読んで悩む。
前回のチーム会議の際、私も同席したら獄さん微妙な顔してたんだよなぁ。

「暇だけどやめておく。そのかわり会議終わったらお話聞かせて?」

画面をタップし送信すればすぐにかかってきた電話。
取れば、声変わりした青年とは思えないやや高い声が電話口から聞こえてきた。

「なずなさんマジで来ないんすか?」
「だって前行った時獄さん微妙な顔してから…」
「空却さんはいいって言ってますし大丈夫ですって!」
「でも…」

どうしようかと悩んでいれば遠くから十四君を呼ぶ声と物音が電話越しに近づいてくる。
今日は十四くんは空却くんのお家で修行していたようだ。

「オラァ!十四ぃ!風呂入ってこいって言ってんだろ!!!」
「あ、空却さん!ちょっと待ってくださいよー。」
「ンア?何してんだ、ってなずなじゃねえか。よう。」
「空却くん、こんばんは。ねえ、明日のチーム会議って。」
「別に来たって構わねえぜ。…ああ、獄に遠慮してんのか?あいつなら困らせときゃあ良いんだよ。」

空却くんも十四くんも楽しんでるのが伝わってくる。
私が来たのを見た獄さんの嫌そうな顔が見たいのが見え見えだ。
はあと溜息を吐くと電話の向こうからギャハハと笑い声。

「知ってるかァなずな。チーム会議でオメェが来るとアイツのコーヒーの減りが遅いんだわ。」

どう言う意味だかわかるか、そう言われたけれど私にはわからない。
なぜ私がいるとコーヒーの減りが遅いのか。
獄さんはぬるくなったコーヒーは好まないはずだ。
うんうん悩んでいる声に十四くんがねえ、と私に声をかけた。

「その話が気になるんなら明日来ればいいんすよ。」

最初からこのつもりだったなとため息をつく。

「獄さんの邪魔になるんならすぐに帰るからね。」

ギャハハ、という笑い声とやったーと喜ぶ可愛い声。
それを聞きながら明日は何を着るかとクローゼットを覗いた。


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