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月神の恋人 【鬼滅の刃 黒死牟 R18】

第5章 ※雨の蜜夜 とこしえの契り※


「よくも、この恩知らずがっ」

憎々しげに叫んだ女将は悪鬼の如き表情をしていた。

「みんな、この恩知らずを捕まえておくれ」

騒ぎを聞き付けた従業員が店の中から出てきた。キリカを取り囲むように、じりじりと近寄ってくる。

どん。

キリカはいよいよ壁際に追い詰められてしまった。掌に、ざりざりとした土壁の感触がした。

(どうしよう・・・)

逃げなくては。キリカの胸元を冷たい汗が滑り落ちた。壁に背をつけたまま、少しでも移動しようとする。

「ー!」

伸びてきた数本の腕を、屈んで避ける。キリカは一瞬の隙を見逃さなかった。形振り構わず、包囲網から飛び出した。

「早く捕まえるんだよっ」

「待てっ」

「この野郎っ」

女将の、皆の、声や仕打ちが礫のようにキリカの心を抉る。

あれはキリカの知っている女将ではない。一緒に働いていた仲間達ではない。

キリカは、たまらず走り出した。



「ここは・・・」

キリカは鬱蒼と木々が繁る森の中にいた。頭上をぎゃあぎゃあと気味の悪い鳥が飛んでいく。

ここは何処だろうか。追っ手は振り切ったものの、完全に迷ってしまった。

ぽつり。

空から滴が落ちてきた。先刻までは雲一つない空が広がっていたと言うのに、いつの間にか、薄墨を流したような色に変わっていた。

古びたお堂を見つけたキリカは入り口の前に立ち尽くしていた。

中はかび臭く、クモの巣だらけだった。だが、雨に濡れるよりはいいだろう。意を決して、扉に手をかけた。ぎぃっと軋んだ音を立てて、蝶番の扉があいた。

手頃な場所に膝を抱えて座り込んだ。黒死牟の屋敷に帰りたくても道が分からない。これから、どうしたらよいのだろうか。

次第に強くなってきた雨音に、心細さが増していくようだ。

(黒死牟様・・・・)

今すぐ会いたい。声を聞きたい。そばにいてほしい。涙を含んだ睫毛をしばたたかせた。

大粒の涙が零れ落ち、膝の上に染みを作った。

「黒死牟様・・・」

啜り泣いた。孤独や絶望が、涙に形を変えて溢れ出てくるようだった。

「黒死牟様・・・」

もう一度、呼んだ。返事が返ってこないのは分かっている。それでも呼ばずにいられなかった。






















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