第19章 最推しシュガー!【Idia】
制服のブレザーを脱いで、代わりにだぼっとしたパーカーを着た。
これは気持ち程度のお洒落である。
ターコイズブルーとブラックの、ロゴ入りのパーカーは「なんかイデア先輩みたいでかわいい」と思って買ったものだった。
グリムにお留守番を頼み、張り切って鏡舎へ向かうのは、オンボロ寮に住む監督生である。
ささやかだけれど、これから彼女は"お部屋デート"なのだ。
"iGNiHIDE"と書かれた鏡の中へ吸い込まれていく。
もちろん、イグニハイド寮の寮長に会いに行くためだ。
彼女は上機嫌だった。
だって、彼からのお誘いなんて珍しいから。
監督生とイグニハイド寮長イデアは付き合っているけれど、こうして自分から誘ってくるのは久しぶりだった。
イデアは引き籠もりなので、いつも監督生が勝手に部屋へと押し掛けていた。
付き合う前や付き合ったばかりの頃は、イデアも何とか勇気と気力を振り絞り「さ…散歩とか、してみます?」「購買に用がある故、帰りにそっちに寄ってもよろしいか?」などと言ってくれたものの、最近はめっきりなくなった。
喧嘩もしていないし嫌われてはいないけれど、監督生から誘わなければ何も無い。
男の子って何でこうなの。
付き合うまでは手に入れようと必死になる癖に。
彼女はずっと不満だった。
しかしそれが今日、突然に
「見せたいものがあるから来て」
と言ってくるものだから、嬉しくなってしまった。
3年生で寮長のイデア先輩はいつも忙しそうだから、自分の為に時間を割いてくれるなんて、嬉しかった。
監督生は落ち着きのない歩き方でイグニハイド寮へ突き進んでいく。
楽しみだわ。
見せたいものって何かしら。
と、期待に胸を弾ませながら。