第14章 略奪ライアー!【Trey】
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「トレイ先輩、こんにちは」
「おっ、監督生か。いいタイミングだぞ、ほら。お前の好きなのが焼けた」
「ふふ、狙って来たんですよ」
「ははっ、そうか」
放課後、今日も監督生は鏡を抜けてハーツラビュル寮へやって来た。
お目当てはここの副寮長トレイ・クローバー。と、彼の焼くケーキである。
「ケーキは焼きたてだが…その前に調理器具を洗って片さないとだな。何処かに手伝ってくれそうな、先輩思いの後輩はいるかな。」
「はあい!」
監督生が元気よく手を挙げて洗い場へ向かえば、トレイはフフッ、と笑う。
「お前は素直で助かるよ」
「エースやデュースとは違うでしょう?」
「ああ、この学園では珍しい"普通"の後輩だな」
「先輩とお揃いね。嬉しい」
「ははは」
監督生はせっせとボウルやら泡立て器やらを洗剤で綺麗に洗う。
オンボロ寮では家事は彼女しかやる人がいないので、これくらいは造作もない。
手を拭きながらケーキの置かれたテーブルの方へ戻ってくると、トレイが二人分の紅茶を用意していた。
「いい匂い。」
席に着けば、トレイが監督生の為にレモンケーキを切り分けてくれる。
「よし。…それじゃあ始めるか、なんでも…いや。なんでもある日のパーティ、だな。といっても二人しかいないが」
「なんでもある日、ですか」
「だって、お前は今日も何か話したいことがあったから来たんだろう?昼休みそう言ってたよな?」
「…はい」
トレイは席に座り紅茶を一口飲む。そして、ふぅと息をつく。
「またトレイ先輩に相談、したくて…。」
監督生はカップの縁を指でなぞるようにくるくる触る。
悩みがある為に落ち着かない様子である。
対照的に、トレイはゆったりと椅子にもたれかかった。
下に弟や妹がいる彼は彼女の心の緊張に敏感だった。