第10章 本命ベイブ!【Ace】
「…あ〜つか、グリム遅くね?」
何となく恥ずかしくなってきて、エースは監督生から離れた。
恋愛に対してマジになっている自分が珍しかった。
「確かに。大丈夫かな」
「ったく、どっかの誰かの監督不行き届きってヤツ?仕方ねーから、優しいエースくんが様子見に行ってやりますか」
「一言余計よ」
「へーへー」
エースは脱いで適当に置いていたブレザーを羽織ると立ち上がった。
「私も行く、待って」
「やだ。」
畳んで置いてあった監督生のブレザーを、エースが取り上げるように掴む。
「…なーんてね。そんな悲しそうな顔すんなって。」
またやられたわ、という顔をする監督生に背後からブレザーを着せてやる。
この顔を見るのが結構好きだし、怒って叩かれるのも満更でない。
結局好きな子にちょっかい掛けるのは一番楽しいものだ。
エースは談話室のソファから立ち上がる監督生の頭を、ポン、と通り過ぎざまに叩いた。
「監督生ー、好き。そういえば言ってなかったわ。」
ちょっと大きめな声で言った。
顔を見られないように、大股で玄関へ向かった。
なんだコレ。思ってた数百倍恥ずいわ。
考えたら元カノのあの子にもメッセくらいでしか言わなかったな。
(オレ全然クールじゃねー。)
「ねぇ、待ってってば。置いていかないで」
「おわッ、」
びっくりした。
監督生がオレの左手を急に握るから。
「怖いから、手を繋いで」
「ハハッ、嘘つけ、お前ほど怖いもの知らずな奴居ないわ」
そう言って、オレは監督生の右手を握り返した。
手も薄くて、小さくて、柔らかかった。
「なぁ、監督生」
「?」
「オレこの手、一生離さないかもだけどいい?」
END.