第2章 信長の侍女
目覚めるとすでに辺りは明るく、昨夜と同じ部屋の中。
少し肌寒さを感じて布団の中を覗けば、一矢纏わぬ姿の自分.....しかも、胸のそこかしらに赤黒い痕が付いている。
「っ...............」
昨夜の情事が、一瞬で頭を駆け抜けた.....
そっと身体を起こすと、
「いっ.........っぅ.....」
体に刻まれた下半身の痛みと、気怠さ。
そして、敷き布には赤い印が付いていて、信長に抱かれた事が夢ではなかったと、嫌でも思い知らされた。
私は昨夜、両親の仇に慰み者にされた.....
未だじんじんとするお腹の熱は、間違いなく昨夜信長に与えられたもの。
「っく、.....う.....」
悔しくて涙が自然と溢れたけど、急いでそれを拭った。
「っ........泣くな、こんな事、父上や母上の無念から比べれば大した事ない。それに.....」
『空良.......』
あの本能寺の夜、顕如様は私に申された。
『もし今宵、お前が信長を仕損じる事があれば、その容姿でもって奴の懐へと入り込み、次の機会を待て』
あの言葉は、この事を言っていたのだろう。
私に、信長の女となって、その隙を狙えと.....
けれど、信長はもう私が仇討ちの為に彼の前に現れた事を知っている。
昨夜は流される様に賭けに乗ってしまったけど、うつけと言われる男の事など信用できない。
このままだといずれ拷問を受け、顕如様の事が知られてしまうかもしれない。
今が一体何刻なのかは分からない。しかしこの豪華絢爛の部屋の中に私以外には誰もいない。
(逃げるなら今しかない!)
辺りを見回し昨夜剥ぎ取られた着物を素早く着付け、急いで部屋を出た。
「.............え、ここもしかして、........天守?」
気絶させられ連れて来られたけれど、見るからに権力者の部屋の様相を呈していたから、すっかり本丸御殿の中だと思っていた。
「.........天守に、住んでるの?」
変わった男だとは聞いていたけど、想像以上だ。
「だめだめっ、驚いてる場合じゃない!逃げなくては」
呆気にとられた頭を再度現実に引き戻し、ひたすら階段を降りて長い廊下を渡った。