第2章 赤い瞳の少女
その日の実験は、火を使うものだった。
防火壁に覆われた部屋の中心には、特殊な椅子が1つあるだけ。
その椅子に、玉依茜は腰掛けていた。
天井から吊るされたプロジェクターから映像が映し出され、研究員が指示を出している。
「では、始めます」
その言葉を合図に映像が消えた。
先ほどまで表情ひとつ変えずに説明を聞いていた茜は、虚空を見つめる。
すると、部屋の四隅から火の手が上がった。
ぱちぱちと爆ぜる音が聞こえる。
火は、少しずつ中心へ向かって、舐めるように侵食していく。
燃えやすい素材で作られた絨毯は、見事にその役目を果たしている。
次第に炎が迫ってきた。熱気が伝わってくる。
茜は、ゆっくりと瞼を閉じた。
「……ふむ」
彼女の様子をモニター越しに見ている人物がいた。
ストレイン研究施設のセンター長、御槌である。
火事ですべてを失った茜は、ストレインとしての力を覚醒させ、しばらく《セプター4》の監視下に置かれていた。
その力に目をつけた御槌によって現在の施設へと送られ、毎日のように実験をさせられている。
「さあ玉依君、君の力を見せたまえ」
御槌は、周囲を炎に包まれてもなお、微動だにしない茜へ呼び掛ける。
実験室の様子は、部屋のあちこちに取り付けられた音声機能を内臓した特殊なカメラによって、逐一、撮影と同時に録画されている。
管理室の複数台あるモニターは、さまざまな角度から茜を映し出していた。
御槌はメインモニターを注視したまま、卓上マイクを手繰り寄せる。
にやりと口角を上げた。
「君はあの時、能力によって生かされたのだ。いまの君を見れば、ご両親も誇らしく思われることだろう」
瞬間、茜の目が見開かれた。
同時に、彼女を中心に強風が巻き起こる。
風は、茜を包み込むかのように渦巻き、彼女の周囲に壁を作る。
部屋を覆いつくすほどに成長した炎も、風の壁に阻まれ、茜に襲い掛かることはできない。
「……ふっ!」
勢いをつけて、両腕を突き出すように左右へ広げた。
竜巻のように彼女を覆っていた風が突風となり、部屋全体へ広がる。
次の瞬間には、火は完全に吹き飛ばされ、あっという間に鎮圧されていた。