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Mirror【R18】

第2章 崎元澤子


「八百円になります」

お店の馴染みの女性にブーケを手渡す。

ワレモコウと萩の小さな花束。
それは楚々とした感じのその女性に似合っていた。

この仕事をしていてつくづく思うのだが、なぜだか人は、自分と似た印象の花を買い求める。
小花は繊細さを。
強い香りはどこか妖艶で。
鮮やかな暖色は明るさを現す。

何度か通ってくれればその人の好みが分かった。
一つ一つブーケをつくるたびに、馴染みのお客さんが増えていく。

そんなことを考えながら鼻歌を歌っていると、入れ違いに男性がお店に入ってきた。
いらっしゃいませ、と言い終わる前にその人は私の前に立って尋ねた。

「どの花が好き?」

「は?」

花を見もせずに訊いてきたのは若い男性のようだ。

けれど、なんだか妙に落ち着いて見える。

「お勧めですか? ええと、先程入荷したこのガーベラなんかは……」

「じゃ、それ全部」

「え? はい、ありがとうございます」

これ一本五百円するんだけど。
それらをラッピングしてお金を受け取る間、男性はじっとこちらを見ていた。

いや正確には私を、だ。
まるで風景でも眺めるような無遠慮な感じ。

「はい、どうぞ……」

血みたいな赤に、ほんの少しの緑と白を差し色にラッピングをした。
差し出しながらこの人にこの色は、どうも違うような気がした。

「あんたに」

「え?」

「また来る」

赤褐色の、ガーベラの大きな花束を抱えながらぽかんとしている私を無視して、その人はさっさとお店を出て行った。




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