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【APH】英国紳士との冬

第3章 たまにはいいかもしれません


なのに。

ちょっと御手洗に、と立ち上がれば手を引かれた。バランスを崩して其の儘後方に倒れ込めば、そこは暖かいイギリスさんの腕の中で。
まるで子供をあやすかのようにゆらゆらと揺れるイギリスさんに抱かれ、ゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
微かな薔薇の香りと紅茶の匂い。他にも、バターが焦げた匂いも混じっている。この人、もしかしてスコーンでも作ったのかしら、なんて考えられるほどにはもう大分気分は楽になっている。
「やっぱりわたしは貴方がいないと駄目そうです」だなんて言えば、
「当たり前だろ、バカ。」
なんて、心底幸せそうに返される。
ここまでたどり着くのにこんなに時間がかかるとは思わなかった、なんて嫌味を言われながら、肺一杯に彼の匂いを取り込んで、ジクジクと涙と共に募っていた体の熱をいっぱいに込めて、吐き出す。
顔を覗き込まれて、先が透けそうな金の髪が私の頬に落ちてくる。優しい、柔らかいキスを受けているから。
キスをして、ちょっと離れて。いつもなら視線が絡まるはずだけれど、涙に滲んだであろう化粧を心配して、ちょっと俯く。
今度こそ御手洗に、と立ち上がれば後ろから「ここまできてお預けか?」なんて非難がましい声があがる。可愛らしい方だなと思う、笑いが洩れてしまう。
視線がほんの少しかち合う程度に振り向いて、
「ねえ、イギリスさん。私、貴方に焦がれてるんです。本当は一瞬たりとも離れたくないくらいだけれど、貴方には1番可愛い私をみてほしい」
と言って、耳まで赤く染める彼を視界の端にギリギリまで留めながらお化粧室へと向かう。
直接的な表現は避けて、はしたない真似はせずに...と思っていたけれど、あの人のあんな顔が見られるのなら、たまにはいいかもしれないと緩む頬を抑えて思う。
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