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小さな愛【R18】

第1章 はじめての世界



「お腹は空いてるかな? ちょうど今から食事でね。 作りすぎてしまったから、良ければどう」

そんな私を見てか、朱色の唇を薄っすらと開けて男性が訊いてきた。

我に返った私は視線を下ろして、自分の境遇を思い起こす。
同時に、自分がここに来た理由とやらなければならないことが、見えないプレッシャーになって胸に詰め寄ってきた。


食欲なんて。
そんなもの、この非常時に起こるはずなんか。

しかしそう思った瞬間、グウ、と大きく返事が鳴る。
人って、お腹の音が大きい。

驚いて狼狽える私に、男性が愉し気に口の端っこを上げた。

「あはは、素直だね。僕の名前はルカ。どうぞ、入って」

彼が軽い調子で笑いながら、恥ずかしくて俯いてしまった私を家の内部へと招き入れてくれた。

彼の後に続いて、私は中の様子を見渡した。

外から見るよりも、意外と天井が高い。 玄関と廊下は明るい木そのものの色と紺色を基調にして、落ち着いた感じにまとめられていた。

そして促された先の部屋に、丸くて大きな木のテーブルの上には湯気の立ったお鍋が置いてある。

どうやら匂いの元はこれだったらしい。


彼、ルカさんは私のような突然の訪問者に慣れているようだった。
私に向けて椅子を引いてくれたので、素直にそこに腰を掛けた。
テーブルの手前に平たい取り皿とフォークやスプーンを並べてくれる。

「きみ、タイミングが良かったね。良いウサギが手に入ったんだよ」

ルカさんはそう言って、杓子で鍋から中身を掬ってそれを入れた丸い木の器を私に手渡した。 お肉らしきものが入ってとろりとした、茶色のシチューのようなもの。
それを見た私はつい喉を鳴らしてしまう。

彼が私の向かい側の席に着き、勧められるまま口に運ぶ。

人間になったら味覚もそれに似るのだろうか、元は肉食で猫舌の私だけど全く気にならない。
香りのよい野菜が溶けた濃厚なスープからほろほろと解ける肉の旨みが広がる。
思わず一瞬目を見開いたあとに、私はぎゅっと口を引き結んだ。

「お、……美味しいです!」

感激のままそう口に出すとふふ、という声が聞こえてきた。
彼が頬杖をついて薄っすら笑みを浮かべ、そんな私の様子を眺めていた。

その表情のお陰かルカさんという人は、始終柔らかな雰囲気を身に纏っている。



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