第2章 令和最初の鬼
「うう……酷い……」
これ、夢じゃないの?
だったら……この脚も、またくっつくの?
脚に手を伸ばそうとしたところで、男はつかつかと歩み寄ってきた。
「何度も言わせるな。お前の家に連れていけ」
「う……」
じっとりと目を見つめられると、なんだか頭がふわふわとした。
……この人には、逆らえない。私の中の本能が、血が、細胞が、そう言っている気がした。
「わ、わかった。わかりましたよ、『無惨様』……」
「ふん、わかれば良い」
「……って、あれ? わたし、名前、なんで知って……?」
きぶつじ……むざん。この人の、名前。……おかしいな。一度も聞いてないはずなんだけど――
「……!?」
その瞬間、私の頭がキーンと痛くなった。
この人は鬼の始祖で、平安時代の貴族として生まれて、鬼となって、たくさん人を食べて――
彼が生きた1000年以上もの記憶の断片が、膨大な情報となって脳になだれ込んできた。
「はぁ、はぁ……」
頭が張り裂けそうなほどの、頭痛。うずくまった私の脚を拾ってくっつけながら、無惨様は淡々と言った。
「ようやく理解したか? 最低限、必要な記憶は与えた。これからお前には、私に協力してもらう。……いいな?」
「うぇぇ……なんでわたしが……」
「別に誰でも良かったが、最初に話をしたのがお前だったからだ」
「そんなぁ……」
「わかったら、早く立て。ぐずぐずするな」
「うぅ……はい。わかりましたよぉお~……」
……ああ。なんだかよくわからないことになってしまった。
大正時代からタイムスリップしてきたっぽい最凶最悪の鬼の始祖に、これから協力しないといけないなんて。こんなの私、完全に人類の敵じゃん。冗談じゃないって、ほんとに。
だけどこの時の私は、気付いていなかった。本当の地獄は、これからなんだということに――
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