第16章 餓鬼
「…誰かいるんですか?」
私はその声に振り返った。
珠世さんが鬼であることを隠すためにくれたローブで、顔は見えていないはず。
「……まだ鬼がいたのですね。」
けれど、すぐにバレてしまった。
「……」
珠世さんから話は聞いていた。なので鉢合わせるとは思っていた。
予想外にはやかったですね。
彼女の手には…薬品だろうか?何か液体の入った瓶が握られていた。…いや、そんな淡い希望は捨てましょう。私は知っている。その瓶の中身を。珠世さんから聞いた。
はぁ。なるべく見つけられないように、珠世さんに一番奥の部屋を貸してもらったんですけど…。あとはどう切り抜けるかですね。
「鬼の気配がするので来てみたのですが…。安心しました。珠世さんからあなたのことは聞いていますよ。兪史郎さんと同じように、あなたは珠世さんの手によって鬼にされたんですよね。人は襲わない、と。」
……そんなに殺意振り撒いて何を言うんだか。でも、気持ちはわかりますよ。
さすが柱ですね。
「………はやく戻った方が良いですよ」
「何のことで「おい貴様ッ!!」」
思った通り、兪史郎さんが来ていた。彼女も気づいていたようで、驚きはしなかった。
「勝手にうろうろ歩き回るなッ!!」
「これはこれは、すみません兪史郎さん」
…彼へ対する殺意もなかなか。
「あとお前も。珠世様が閉じ籠ってばかりで心配してたぞ。」
「………」
「もうこの際全て話してしまえば良いだろう」
兪史郎さんなりの優しさだろう。私は決心した。
「……しのぶ」
名乗ってもいないのに名前を呼ばれて彼女は驚いたようだった。それもそうだろう。
私はローブのフードをとった。
「久しぶり」
しのぶは、鬼になった私を前に、その笑顔を消した。