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キメツ学園【鬼滅の刃】

第16章 餓鬼


過去の私が私にくれたもの。

それは。


想いだった。


何年たっても色褪せることのない、気持ち。笑顔の裏に隠れた本当の気持ち。


冷たく、凍えるような温度のそれは、ずっと私の中にあったものだ。


私はいつも、平凡を願っていた。


両親が、普通に私を愛してくれて。
私は普通に成長して。
普通に、普通に生きる。
華族だったし、普通に良い人に嫁げたかもしれない。
普通に暮らせたかもしれない。


そんな未来が私にもあったなら。


どうして誰も私を愛してくれない?
どうして私は普通じゃない?

どうしてどうして。


私の心は冷めきっていた。


私はどうせ死ぬ。
死んだら空っぽになる。

父のように。









































『また来たのですか』

「何度でも来るよ」


ガラスの向こうに私がいた。


「思い出したよ。私…あんなに苦しんでいたんだ。」

『……。』

「…そんな苦しみを知った上で、まだ記憶が欲しいかって言いたいんだよね。」


燃え盛る炎の中、向こうの私が頷く。


『…なにもかも忘れたい…それが私の願いでした』

「……それはあなたの願いだよ。」


過去の私は無表情に私を見る。どういう意味か、と尋ねるように。


「私は思い出したい。」

『……思い出して、どうするのです。』


そう聞かれ、私はしばらく沈黙した。


「……生きてて、良かったって…思いたい」

『……』

「嫌だよ、無念のまま死ぬなんて。私は、私のこと嫌いじゃない。」

『…いいえ。私は、生きてはいけなかった。』

「違う。生きてはいけなかったかもしれないけど、生きてて良かったってあなたは思うべきなの!」


向こうの私は首を横に振る。


『人を殺め…鬼になった私に、何を…』

「踏みにじるの!?お館様や、皆の気持ちを!!」

『……踏みにじったから、私はここにいるんです!!!』


向こうの私の叫び声に、私は圧倒されてしまった。


『……私ならわかるでしょう…』

「………。」

『もう、終わらせて…』


無表情のまま彼女は私に背を向ける。
炎の向こうに消えていく。

手を伸ばして叫んでも、もう声は届かなかった。
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