第2章 Kiss her hand
漂ってくる煮炊きの匂いが、夕餉が近いことを教えてくれる。
今日はお使いに行ったからと、夕餉の支度の手伝いはしなくていいと、女中さんから言われていた。
(気持ちいい夕暮れ……。戦が近いなんて全然実感がわかない。舞ちゃんにも話したけど、舞ちゃんも実感わかなさそうだったな。)
「–––茜、探したぞ」
「政宗さん? その格好は……」
「見ての通り、戦支度だ」
(え……!さっき、佐助くんから聞いたばっかりなのに?!)
「来い、信長様がお呼びだ。お前も軍議に出席しろ」
「軍議に、私も……っ?」
「お前は俺たちに幸運を呼び込む女なんだろ?」
有無を言わさず私の手首を掴み、政宗さんが歩き出す。
(政宗さんはここ数日、料理を一緒に作ったり、何かと話しかけてくれたりしたから、武将っぽい印象なかったけど……)
今は、全身からゆらめきたつ覇気に気圧され、近くにいるのに遠く感じる。
「どうして……そんなに嬉しそうなの?」
「嬉しいなんて言葉じゃ足りない。血が、沸き立ってる。武功を立ててのし上がる千載一遇の機会だ。–––龍虎退治が始まる」
(龍虎退治……?)