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【ワールドトリガー】犬飼澄晴 短編集

第7章 忘れめや (→)


二宮隊へ渡す書類があったので、隊室へ向かって歩く。

ボーダー内では、あまり会わないけれど、今日は犬飼くん、隊室にいるかな?会いたいな。せっかくなら、隊服が見たいな。格好いいもの。
直接会うことは少ないけれど、ランク戦は必ず見ている。彼を見ていて思うのは、すごく視野が広いということ。中距離で戦うガンナーがよく合っている。観察力が優れていて、多くの情報を適切に処理して戦っているのがわかる。
元来、器用な人なのだろう。その上で、訓練を怠らない真面目さとか熱さがある人だと思うのだ。じゃなきゃ、二宮隊で、隊員としての役目をきっちりこなし続けることはできないんじゃないかな。いつも軽そうに笑っているから、何でも簡単にすぐできるって勘違いしそうになるけど。




「失礼します。二宮隊に書類を届けにきました。」

隊室へ入ると、二宮がいたので、書類を手渡した。辻くんが無言で会釈したので、こちらも返す。二人ともトリオン体でスーツ姿だ。これはもしかすると

「あれっ。葉瑠さんどうしたの?」

奥から犬飼くんが出てきた。スーツ姿だ。嬉しい。

「二宮隊に届ける書類があってね。持ってきたの」

「へえ、そうなんだ」

「こんにちは。どうぞ座ってください」

「氷見ちゃんありがとう!でも、すぐ戻るから大丈夫だよ」

お礼を言って、ドアへ向かう。そのとき、ポケットからはみ出ていた、しおりが落ちた。諏訪に借りた本を返して、そのあと、しおりはポケットに入れていたんだった。
犬飼くんが、しおりを拾う。

「葉瑠さん、落としたよ。」


「犬飼くん、ありがとう」

「気をつけなよ。大事なものなんじゃないの?」

「……うん」

彼に、このしおりについて説明したことは、ほとんどないはずだけど。そんなに態度に出ていただろうか。いつも読みかけの本に挟んでいたからかな。
大事なものだ。もう3年程前だろうか。私ひとりの、ひとりだけの思い出だ。今度は絶対落とさないように、ポケットの奥へしっかり入れた。ポケットの上から手を当てて、もう一度あることを確認する。

顔を上げると、犬飼くんはもう奥の部屋へ戻っていた。みんなトリオン体だし、これから、ミーティングでもあるのかな。邪魔しないようにと、退室した。






我が命の全けむかぎり忘れめやいや日に異には思ひ益すとも(万葉集595)
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