第1章 序章
『孤爪くんのこと全然知らないから、何話せばいいか悩んでたら時間だけ過ぎてっちゃって…お恥ずかしいホントに』
「おれも…こういうの、苦手だから……」
おれの言葉に、周囲は憐れみを孕んだ視線を向けてくる
二人ともに押し黙ると、その間を縫うようにおれの正面にいた男が口を開く
「孤爪ってバレー部だろ?なんか意外だったから覚えてんだけど」
話題を提供してくれた
おれが話せる数少ないものの一つを…
「…うん」
なのにこんな言葉しか返せない
『へえ!私も小学校の時やってたの…!』
共通の話題が見つかった事に、さんは尻尾を振って応えてくれる
この人は…悪意とかそういう類のものを、お母さんのお腹の中にでも置いてきたのかな
「どんくさいから補欠でしょ」
『なんてこと言うんだい!バックだよ!』
「スパイカーじゃないあたり想像通りだわ」
『ちょっとォ!!??』
さんを中心に回る会話に、おれは側に居ながら、いつもの窓際に居るような気分になった
意外だったのは、彼女はもっと、なんか、遠い存在のような
こんな風にいじられるようなイメージではなかったから
でもそれが、逆におれと、彼女を取り囲むこの人達との差を歴然と感じさせる
話し掛けたくせしてろくに会話も入れないまま、チャイムの音がこだまする
ぞろぞろと自身の教室へ戻っていく中で、おれも席へと足を向けかけた時
周囲の人間が居なくなったタイミングで、控え目に袖が引かれた
「…!」
彼女の意外な行動はまだ続き、周りに聞こえないようおれの耳元へ顔を近づけ、
『ねえ、孤爪くん。今日さ、見に行ってもいい…?…部活』
たどたどしく呟かれた言葉に、おれはなんとも言えない顔で頷いた
なんで?やってたから?わざわざ周りに聞こえない様に言ったのは?やめてよそういうの
女子と話したことなんかほとんどないんだよ?おれ
変に期待とか、させないでよ