• テキストサイズ

黄金の草原

第4章 人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香ににほいける



絶望のどん底に落ちたような顔で、陽露華は女性を凝視する。呼吸は浅く、速く、回数が増え、息苦しさでその場に蹲った。


「陽露華ちゃん!?」


公任が陽露華に触れようとしたら、陽露華はその手を払った。

女性は悠然と歩き出し、3人に近付いて来る。


「陽露華ちゃん、あの人知り合い?」
「は…は………で…す……」


母。

それを聞いて、公任と銀邇は雑木林で話した事を思い出した。


「あの…人に……逆らわ…ないでっ…ください……」


蚊の鳴くような声で陽露華は忠告する。

公任と銀邇はいつでも陽露華を連れて逃げ出せる様に準備して、陽露華の母を待った。

陽露華の母は、決して綺麗な顔立ちでは無かった。低く平らな鼻、太い眉、細い目、薄い唇。シワもあればシミもある。綺麗に着飾っていても、身につけている人間がこれでは、見劣りして興醒めである。

陽露華の母は3人の前に立った。

銀邇は冷めた目を向けていた。公任は陽露華を守る様に立つ。

陽露華は荒い呼吸をしながらも口を開いた。


「ご無沙汰、しております……お変わり、無い様で、何よりです」


かつてこの様な、苦し紛れの挨拶は見たことがあるだろうか。

公任と銀邇は黙って会釈するだけに留めた。

陽露華の母は公任と銀邇を交互に見ると鼻で笑った。


「あんたみたいな俗物が、一丁前に用心棒雇ってどこ行く気だい? あ、その逆か! ついに売られたか! あはははははっ!」
「……っ!」


公任が一歩踏み出すと、袴の裾を陽露華に掴まれた。
陽露華は首を小さく振っていた。まるで意味がない事を示すように。

銀邇はそんな事は露知らず。言い返していた。


「こいつは売られてなければ、俺たちも買ってない。故郷を追われたこいつを拾っただけだ」
「なかなか面白い冗談ね。その薄汚い小娘に出来ることなんて、たかが知れてるわ。一夜の営みも満足にできないものね? 人は高値が付くこともあるけど、そこまで高くなかったでしょ?」


まるで会話になっていない。

公任も銀邇も、この人間相手に反論は無駄な足掻きだと気づくだろう。


/ 116ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp