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黄金の草原

第3章 しぼめる花の色なくて匂い残れるがごとし



水で濡らした手拭いを、右足首に巻きつける。
ひんやりとした感触が、患部を冷やし炎症を抑える。

公任、銀邇、陽露華は次の目的地である、陽露華の親族が住む地へ向けて旅をしていた。

人の手が加わっていない川で、陽露華の捻挫した足を固定し直す。

陽露華は銀邇におんぶされると、公任を先頭に3人は歩き出した。

公任は陽露華の聴いたことのない歌を口遊みながら歩く。
陽露華はふと銀邇に聞いてみた。


「銀邇さん、公任さんが歌っているのは何の歌ですか?」
「生憎、俺も知らん」


陽露華は心底驚いた。一緒に旅をし始めたのが途中からであっても、これは知っていると、すっかり思い込んでいた。


「俺も前に聞いたんだが、『ただの童歌』としか教えてくれなかった」
「そうですか。公任さんが読んだ『本』と関係あるんでしょうか」
「……その考えはなかったな。いや、そうかもしれない」


この歌を歌っている時は、公任は会話に入ってこない。
途中で止める事もない。

この歌う姿は、何かを祈る様で、しかし何かに取り憑かれた様でもあり、そして何かを忘れない為のようにも見える。

陽露華は黙って、公任の歌に耳を傾けてみた。すると、気がついた。


「公任さんの出身は、北ですか?」
「……なぜそう思う」
「あの歌で『雪』が頻繁に歌われています」
「……よく気がついたな。北出身で間違いない」


銀邇は感心した。
精神的に辛い状況下でも、こういう小さな発見をして話せる。彼女なりに“今”を受け入れようとしている証拠だった。


「お! 見えてきたよ、2人とも!」


いつの間にか歌い終わった公任が前方を指す。

銀邇は隣に並んで、眼下を見下ろす。


「宿場町だ。ここで休憩しよう」


公任の提案に、銀邇と陽露華は賛成した。



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