【ヒロアカ】暴走する、疾風と雷のジャンクフード【上鳴電気】
第3章 幸せな非日常が交差する
俺が出掛けずに大人しく家を見張っていれば、放火はされなかったのか。
あの立ち上っている炎を止められるだけの力が、あのヴィラン達を倒せる程の力があれば。
今更考えても遅いのは判っているが、それでもやはり考えずにはいられない。懺悔せずにはいられない。だが、いつまでも止まっているままでは先に進む事は出来ない。それに気付いた俺は直ぐ様思考を切り替える事にした。
今日は遂に訪れた入学試験の日。勉強は出来る限りの努力をしたし、個性の扱いも大分上手になった筈だ。
「自信を持ってエンジン全快、オーバードライブ!」
気合を入れるためにとそんな言葉を口走りつつ、俺は目を覚ます。
口元を伝う涎を手で拭うと布団を撥ね飛ばして立ち上がり、すました顔で部屋の隅にちょこんと置かれている姿見に近寄っていき、その真正面に自らを映し出す。ハイセンスでトガッている藍色の短髪、ゆるくカールを描いている睫毛に焦点の定まらない瞳。
鏡に映る自分に思わず見惚れそうになりながら、さっと手櫛で寝癖のついている髪を整え、女子にモテ易くなるという噂に踊らされ買った香水を吹っ掛ける。
これがいつもの日常風景。…ってアレ、香水が減ってる?!
「あっ、パピーってば俺の香水勝手に使っちゃったンスね!」
すぐさまそこいらに放りっぱなしな、色んな道具を詰め込みまくったせいでパンパンになっている鞄を抱えて階段を駆け下りリビングに降りていく。
「グッドモーニんぐ!」
「お、今日は早いんだな!いい心がけだぞ!」
父さんは陽気に挨拶をしてくれる、けれどその声は掠れていた。
何故かと言えば、お母さんが昔に自分達の血と汗と努力の賜物で作り上げたお店がなくなっちゃったショックで色々と可笑しくなっちゃって、今は入院しているから。
食卓に並べられているのはこんがり焼けたトーストに旬の野菜を使ったシーザーサラダ。さらに今日はハムエッグまでついてるみたい。でも、すべての料理はすっかり冷えてしまっている。毎回、朝食を眺めているとスーパーでパートを勤め上げていた母さんの手際が抜群によかったのを思い出してしまう。