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千分の一話噺

第30章 あのバカ


「わりぃ、ちょっと頼みがあるんだけど…」

パーソナルフォンにあいつから突然の通信が入った。
いつになく弱気な物言いに嫌な予感がしたが…。
「何よ?私だって忙しいんだから手短にしてよね」
わざと冗談っぽく、やれやれと言った感じで聞いてみた。

「船が故障しちまって、にっちもさっちも行かないんだ
救援隊を手配してくれないか?」
(ふ~ん、船が故障?……!!)
「えぇーっ!何呑気に言ってんのよ!
今、何処にいるの?救難信号は出したの?」
嫌な予感が最悪の自体に変わった。

あいつの船は冥王星への調査船。
一昨日、火星を過ぎたと言っていたのに…。

「木星の衛星エウロパ付近を航行中、突然船の通信機器とナビシステムが使えなくなった
だから、このパーソナルフォンしか通信手段がないんだ」
私も冥王星調査チームの一員、すぐにオペレーションルームに行くと、中は船が消失したと大騒ぎになっている。
とにかくチーフを捜して事情を説明した。
「あのバカ、パーソナルフォンなんか持ち込んだのか!」
チーフが怒るのも無理はない。
私物のカメラや通信機の持ち込みは重大な規定違反になる。
「チーフ、違反はともかくこの電波を探知すれば救助出来ます」
「うむ、救助が先だな!
戻ってきたらタップリ絞ってやる!」


あいつの船は無事救助され、地球に帰還した。
あいつはチーフにタップリ絞られた上、ライセンスの一年間停止となった。
「クビにならなかっただけでも有り難く思え!」
チーフの温情に感謝だ。

あいつと連絡していたのがばれた私も一ヶ月の謹慎を言い渡された。
「よくあんなバカと付き合えるな…」
チーフの一言に苦笑い。
「あんなバカだから良いんですよ」


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