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千分の一話噺

第13章 報国の果てに


男はふと歌が聴こえた気がした。
「…まさかな」
そう、ここは洋上。
男は第三戦隊旗艦「金剛」に搭乗していた。
マレー上陸作戦後、セイロン島沖での作戦に参加するため航行していた。

良く晴れた穏やかな春の日だった。
男は甲板に出て海を眺めている。
(正直、俺は国に帰れるのか…)
その時また歌が聴こえた。
(気のせいではない、女の歌声だ。)
男は辺りを見回した。
そして船先の甲板に女の人影を見つける。
男は女に駆け寄った。
「誰だ!?どうやって乗り込んだ!?」
男は銃に手を掛け問う。
しかし女は歌うだけだった。
「貴様!何者だ!」
男は銃を突き付け、今一度問うた。

「うふふ…」
女は歌を止め、妖しく微笑んだ。
「この船は、国には帰れないわ」
「何だとっ!貴様っ…」
その刹那、強い南風が吹いた。
あまりの強さに男は目を瞑った。
男が目を開けた時には、女の姿はなかった。



戦艦「金剛」は第1次世界大戦から参戦、第2次世界大戦では数々の海戦に参戦し戦果を上げた。
セイロン島沖海戦からミッドウェー海戦やレイテ沖海戦などを歴戦したが、本土へ帰国途中の1944年11月21日に台湾海峡において米潜水艦「シーライオン」の攻撃により沈没、日本に帰港することはなかった。(ネット情報抜粋)



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