【金城剛士】あえてコトバにするなら【B-project】
第9章 絶頂エモーション.3
僕はたまたま半日オフの日に、行きつけの美容室に出かけて髪を切って、その近くで倫毘沙と健十とミカが撮影しているというので冷やかしに出かけた。すると、監督の怒鳴り声が聞こえてきた。
「カーーット。ダメだ。もっと命懸けで!」
「あなた、そんなんじゃ、女の1人も止められないわよ。」
共演者にも指摘されている場面に出くわしてしまった。
こっそり健十の後ろに隠れた。
「あれ。漣、来てたんだ。」
「うん。健十とミカを冷やかしに。」
「いい趣味してますねぇ。」
「でも…」
「今日はもう終わりだ。日が暮れちまった。」
「申し訳ありませんでした。」
澄空さんと倫毘沙が、頭を下げている。
「愛する人を人生掛けて引き止めるシーンで、気迫が伝わらないそうですよ。」
「そうなんだ。」
「俺に聞いてくれれば、ありとあらゆる経験を話せるのに。」
「それ、参考になりますかねぇ?」
ミカと健十の会話に苦笑いしつつ、いつもサラッとなんでもこなす倫毘沙の落ち込んだ表情が、僕は心配でたまらなかった。
「今日は撤収になります…あ、透さん、いらしてたんですね。」
「澄空さん、お疲れ様。倫毘沙は?」
「執事の方が迎えにこられて、帰られるみたいです。」
「僕、追いかけてくる!」
「おい、漣!」
健十の呼び止める声も聞かず、僕は倫毘沙を追いかけた。
「はぁ、はっ…倫毘沙っ…」
「え?漣?」
幸いにも、車に乗る場面だったので、僕もマンションまで乗せてもらった。
「ごめん。タイミング悪かったみたい。」
「いいんだ。俺の不手際だから。命をかけるような愛を、俺はまだ知らないんだな。」
「……僕も、わからない。これといって、アドバイスも出来ない。ごめん。でも、倫毘沙の力になりたい!僕にできること、思いついたらいつでも言って。」
僕は膝の上の拳をぎゅっと握って、倫毘沙のアクアマリンの瞳を見つめた。倫毘沙は驚く素振りを見せたあと、瞳を細めて微笑んだ。
「それなら、ひとつお願い、聞いてもらおうかな。」
倫毘沙は、ずいっと僕の方へ身を寄せて、膝の上の手を取り、気障に口付けた。僕は嫌な予感がして、冷や汗をかいた。