第19章 楽園事件:10
護送車に戻りを座らせると宜野座は隣に腰を下ろす。はまだ俯いたままだ。なぜだかかける言葉も見つけられない。そうしていると小さな声が聞こえた。
「ごめんなさい。」
あまりにも弱々しいので背を撫でた。
「お前のせいじゃないんだろう?」
は首を横に振った。
「あの子たち、先生の言うことを聞かないで殴りかかろうとしていました。だから…ちょっと脅かした…」
「どんな風に?」
は顔を上げて目を合わせる。今日は瞳が茶色い。網膜ホロで変えてきたのだ。それが瞬き一つでいつもの見慣れたアンバーの色に変わる。
「なるほど。」
この目に睨まれるとまさに蛇に睨まれた蛙の状態だ。だがそれはの威圧によるものであって、瞳の色など今では誰でも変えられる。彼女のように自前が琥珀色なのは珍しいが街にはファッションとしてそれぐらいしている人はいくらでもいる。学生ならそういうものにも敏感だから知っているだろう。となると今回の原因はやはり喧嘩をしていた生徒のはず。それが霜月のあの言動での転入も危うくなった。
いっそこの強靭な色相を見せつけるか。
「俺は校舎に戻って霜月監視官にのセラピーの経過について報告してくる。」
そもそも彼女にセラピーは無意味だが、人前で報告すれば周りが安心するだろう。
「ここで待ってます。」
「ああ。すぐ戻るよ。」
「ギノさん。」
「ん?」
は呼び止めておきながら言うか言わまいか悩んでいるようだった。
「なんだ?」
「…濁ってたのあの子たちじゃないです。」
「!?どういうことだ?」
宜野座の目つきが変わる。
「近くで見てた女の子。その子が異様な殺気みたいなものを放ってました。」
「どうしてそう思う?」
「わかりません、勘です。」
宜野座には刑事の勘なるものが常守や狡噛に比べると無かった。今回彼女がなぜそんなことを言っているのかも分からない。事実に基づくもの以外信じない性分だ。だがソレはソレとして受け止めておく。
「周りにいた生徒もセラピーを受けている。大丈夫だろう。」
「そう…ですね。」
どこか不安の拭いきれないを置いて宜野座は霜月のいる校舎に戻った。こちらもセラピーが終わる頃だった。