第11章 楽園事件:2
「なんて伝えるべきか、悩んでいる間に時間がたくさん過ぎてしまった…」
センセイの冷静な声色が少し怖いと感じた。次の言葉は想像したくないが体が震えていく。
が戻ってくるより前に六花は亡くなっていたと告げられた。
治療が上手くいかず悪かった、とセンセイは言った。どんな顔をして言っていたのか、それを見ることもできずは部屋に戻った。それ以上聞くこともなく、話すこともなく。
それからぼんやりと過ごすことが増えた。中庭に面する内廊下の柵に座って小さな空を見上げる日々に意味なんてなかった。これからどうなるのかも分からず、どうしたいとも思わない。そんな時だった。同じ年頃の男がの前に現れた。名を益荒男 亮一(ますらお りょういち)。彼も治療のためにここで生活し、十五年は過ぎたと言っていた。なのに初めて会った。色白で灰色がかった髪は肩につかない程度に無造作に伸びていて、痩せ型だが筋肉質で背の高い男だった。
「あんた何になんの?」
それが亮一の最初の言葉だった。は意味がわからず首を傾げると、亮一は隣に座ってもう一度、今度は言葉を変えた。
「何に化けるの?」
そういうことか。
「鳥。」
がそれだけ言うと亮一は吹き出した。
「なんだそれ、カラス?スズメ?それともハトか?」
何の鳥かなんて知らない。ただ狡噛たちが話していたものが自分だとするとイヌワシということになるが…。そういえば怪物と化した自分の姿は見たことない。
「俺はアラスカオオカミ。」
聞いてもいないのに亮一は答えたが自分と同じような存在と初めて出会ったので思わず顔を向けた。見た目は普通の人間だった。
「じゃあ四足になって毛皮と爪と牙が生えるの?」
「四足にはならないけど毛と爪と牙は生えてくる。」
亮一は笑うように歯を見せる。その歯は次第に尖り大きくなってオオカミのそれになったように見えた。彼の話によると獣の遺伝子が完全に馴染むには時間がかかるらしい。
それよりも気になるのは。
「あなたはどこか悪いところでもあったの?」
「俺がここに来たのは七歳だ。どこが悪いのかも分からないうちにこんな怪物になってたよ。」
彼も同じだ。わけも分からず連れてこられ、気がついたら今。
「変な生き物にならなくて良かったね。」