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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第15章 とまれかくまれ



 とある日の、丑三つ時を過ぎた折。

 ぐるりと田園を囲んで聳え立つ山々の向こうから、薄く細長い雲をかき分けやってきた紅葉が上空で急き込んだ。



「伝令! 伝令! 曇取山付近ノ集落二鬼! 曇取山ノ集落二鬼! 至急応援二向カエ! カア!」

「······曇取山···!?」



 星乃の顔から血の気が引いた。

 曇取山は、星乃の家から最も近い場所にある山だ。夏に縁日が催された神社のある集落もその山の麓に位置する。

 即刻現地へ向かって駆け出した。

 月明かりしか頼りのない山の道。この辺りの地形は既に隈無く把握している。時に急傾斜の崖を下り、大木の幹を伝って宙へ跳ぶ。

 パチ、パチ、パキン、ザ···ッ!!

 小枝を踏む音、葉が衣類を掠める音、木々の間を抜ける音。それらは誰に拾われることもなく、星乃が通り過ぎた後、幾枚もの葉が音もなくひらひらと舞い落ちる。

 もっと早く···! 急いで······!

 最短の距離を行きながら、星乃は紅葉に詳細を尋ねた。

 もとは近隣の山の麓で鬼と奮戦していた一般隊士が、不運にも曇取山で別の鬼に出くわしたという。前鬼は仕留めたものの、隊士はその戦いで大きく負傷。隠が蝶屋敷へ運ぶ途中に現鬼と遭遇したらしい。

 負傷した隊士は稀血の持ち主で、出血した箇所から鬼を引き寄せたのでは、との情報だった。

 そんな状態で戦うことは困難だろう。さらには隠も共にいる。一刻を争う事態だ。



 ( ······それに )



 あの山の集落で生活を営む人たちには顔見知りも多くいる。

 誰も危険な目に遭っていなければいい。

 嫌な予感がした。

 胸がざわめき、足腰に一層力を入れる。













 到着した場所は山の中だった。幸い集落が荒らされた様子は見られずほっと胸を撫で下ろす。

 辺りは闇。
 さきほどまで煌々と輝いていた月明かりは風に流れる雲によって射し込んだり遮られたりする。

 離れた場所から地を削る音や葉を蹴散らすような音が聞こえた。

 呼吸の息遣い。鬼の気配。

 奥に歩みを進めてゆくにつれ、徐々にそれが濃くなってゆく。



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