第1章 松野ファミリー
「よー!」
「あら、おそちゃんたち。いらっしゃい」
「んもう、カラ松ったら。最近来てくれないから、寂しかったのよ?」
「それはすまなかったな、キュートレディー。色々忙しくてな」
「トド松ちゃん、今日もかわいい」
「あは、ありがと」
「いっちゃぁん。はい、猫ちゃんの写真」
「あ、ありがと。かわいい…」
とある街のバー。ここは松野ファミリーの行き付けでもあり、情報収集の場でもある。
「変わったことはない?」
「今日は特に聞かないわね」
「あそ。なら、いいや。けど、後ろの子がナイフ持ってるのは、何で?」
後ろも見ずに言うおそ松。
「え?!あ、ああ!り、リンゴ!そう、リンゴを剥こうと思ってたのよ!」
さっとナイフを取り上げ、持っていたホステスに詰め寄るチョロ松。
「誰に雇われた?」
「ひっ!こ、殺さないで…!」
「ボスを狙っておいて、よく言えるよね」
殺気立つおそ松たちに恐れを抱き、客は全員出て行った。
「正直に言えば、殺さないよ」
「うん!俺たち、嘘は言わナイター野球!」
「マスクをしていたから、顔は分かりません。でも、金をやるからあなたたちを刺せと言われて…」
「まあ大体分かるけど」
「あの前歯だろ」
「一度殺さないとね」
その時店のあちこちから、銃を構える音がした。
「馬鹿のくせに、勘だけはいいザンスね。そうザンス。ミーが命令したザンスよ。チミたちは目障りザンスから、とっとと死んでちょーよ!」
カラ松がウォッカのビンを手にし、ぐいっとあおった。ポケットから出したライターで着火させ、口の中のウォッカを吹いた。
炎はウォッカに移り、即席火炎放射器となる。
相手が炎に気を取られているその隙に、ホステスたちを連れて店の外に出た。
「早く逃げな!」
逃げるホステスたちとは反対方向に走る。
「待つザンス!」
「待てと言われて待つ馬鹿は、いねぇよ!」
「ほいっと!」
十四松が野球のボールをいくつも転がす。
夜で目が見えにくいせいもあって、イヤミファミリーはボールに足をとられた。
「くっ、やるザンスね。覚えてるザンスよ!」
「鉄板のセリフだなぁ」
「あの店、もう使えないな」
「ビューティフルレディーたちに会えなくなるのか。残念だ」
「クソ松の痛いセリフを聞かなくて済む」
「それな!」