• テキストサイズ

夢幻の如く

第5章 二人の関係3


私は、久しぶりに頭がスッキリしていた。
しかし、この状況が分からない。
頭からは、すっぽりと何かを被せられ、周りも見えない。
最後の記憶は、暗い部屋で粥を食べようとしたところまでだった。
だが、今座っているのは、どうも畳らしい。いつ移動したのか、不思議に思った。
少し考えていると、声が聞こえた。

「娘よ、顔を見せよ」

聞き覚えのある声だった。
けれど、やけに命令口調だ。
少しムッとしたが、被っていた布から、ひょっこりと顔を出した。

「……っ‼︎ 何だ、この部屋」

あまりの広さと豪華さに、思わず目を見開いた。
そこは、あらゆる襖、長押の上の壁面などに華麗な金碧障壁画が描かれていた。また、天井は、折上格天井で金箔がふんだんに使われている。
ただ、天井に関しては、一部しか描かれておらず、まだ途中のようだった。
しかしだ、贅の限りを尽くしたような部屋だが、視線を前方に向けると、その空間は、更に絢爛豪華だった。

私は驚いていたが、妙に視線を感じ、辺りを見回した。

「……誰……?」

部屋の豪華さに気を取られ、そこに居る男達に気付いていなかったのだ。
左右に並んで座っている彼らは、皆、着物に袴姿。
と、ここで、焼け野原で出会った男を思い出した。
(パパと喧嘩した後、時を超えちゃったんだ。マズイ。非常にマズイ)
私は焦り始め、眉間に皺を寄せて考え込んだ。

一方、周りの男達も、同様に驚いていた事は言うまでもない。
娘の顔しか見えないが、青い大きな瞳に加え、この時代には珍しい漆黒の髪。
何より、顔がとても小さく、自分達が知る女子とは全く違っていた。

すると突然、秀吉が片膝を立てた。

「娘、お屋形様の御前だ。無礼だぞ。頭が高い!」

私に向かって怒鳴っていると分かったのだが、彼の殺気がビリビリと伝わり、溜め息を吐いた。

「あの、よく分かんないけど、ここ何処?」

「お前っ! 頭を下げろ!」

秀吉は、柄に手をかけていたのだが、つい、ガチャリと鯉口を切ってしまった。
と、ゴツッと音がしたと同時に秀吉が頭を押さえた。
何事かと、皆が彼に視線を向けると、秀吉の足元には、茶碗が転がっていた。
/ 111ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp