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夢幻の如く

第11章 帰還3


信長は、気を失ったあつ姫を膝の上に乗せ、休んでいた間に溜まった書状に目を通していた。
未来の織田信長と前世の織田信長、結局、朝の日課は同じなのだ。
そして、声掛けも無く襖が開くと、それを気にする素振りもせず、一通の書状を襖を開けた人物に放り投げた。

「如月、その書状を光秀に渡しておけ。帰蝶からだ。俺宛だが、読む気にもならん」

「承知致しました。……あの、あつ姫様の朝餉は如何致しますか?」

「あぁ、娘はすぐに目覚める。用意しろ」

信長は、あつ姫の頬を撫でながら、ふと思い出したように部屋の隅を見た。

「それから、そこにある羽織りだが、家康の物だ。返しておけ」

信長が示した場所には、羽織りが無造作に置かれていた。
それは、家康があつ姫を包んでいた物だが、信長は、自室に入るなり無造作に投げ捨てていたのだ。
早朝、家康が来た時に返せば良かったのだが、彼があつ姫の身体に触れ、更に男の羽織りで包んだ事が気に入らなかった。
それに本人に直接返すとなれば、家康の羽織りに包まったあつ姫を思い出し、また苛ついてしまうので、わざと返さなかったのだ。
娘大好きの信長、割と大人気ない。
まあ、そんな事は如月も百も承知で、口角を上げると羽織りを拾った。
と、信長の顔が険しくなった。

「吊るした奴ら、政宗の関係する者達であったが、彼奴の様子はどうであった?」

羽織りを丁寧に畳んでいた如月の手が止まり、またもや悪い笑みを浮かべた。

「ほほ、一番前で話を聞いておられましたが、真っ青でした。女子の処分は決まっておりますが、あの家臣はどうされるのですか?」

「さあな……政宗が慌てふためいて、俺の所に来るであろう。処分は彼奴に任せるが、生温いものであれば、俺が処分する」

「左様ですか……私達も納得する処分であれば良いのですが……」

「貴様ら護衛は手を出すでないぞ。あつ姫にバレるからな」

「承知しております。……それでは、姫様の朝餉を見て参ります」

少し不満気な顔をした如月は、信長の言葉を待ったが、彼は何も言わず、あつ姫の頬をひと撫でし、また書状に目を通し始めたのだった。
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