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夢幻の如く

第11章 帰還3


信長は、あつ姫を気にしつつ、天主の窓から家臣達が騒いでいるのを見ていた。
実際、そこからは男女が吊るされているのは見えないが、天主台の石垣を皆が見上げて笑っているので、想像はつく。

「如月め、すぐに吊るしたな。全く……まあ、ここからは見えんから良いが。……さて、彼奴はどうするか。……ククッ……」

外に見えた人物を見やると口端を上げ、もう用はないとばかりに、眠るあつ姫の元に戻った。

変わって、天主台石垣の前。
人垣をかき分け前に出た政宗は、如月が張り付けた書状をサッと読み、吊るされている者達を再度見て顔色を変えた。
だが、そんな事は如月には関係ない。
誰に視線を向ける訳でもなく、目を細め、口を開いた。

「一つ、安土城内に於いて男女の交わりを禁ずる。
二つ、下品な話を禁ずる。
三つ、女中から下女に至るまで、華美な化粧、飾り物を禁ずる。
決められた着物に刺繍など加工を施すのも禁ずる。
四つ、安土城内にて一切の殺生を禁ずる。
五つ、天主に無断で立入るのを禁ずる。
以上、これに背いた者は、一族郎党皆殺しとする。織田三郎信長」

何だ、今まで通りではないかと、皆が思った。
がしかし、よくよく考えると勤め始める前に聞かされただけで、今まで命令されていた訳ではない。更に細かく指示もされていない。
ところがだ。
今回は信長の花押入りの触書き。
目の前に吊るされている裸の男女。
『命に背いた者は、一族郎党皆殺し』は本当なのだろう。
皆、触書きにもう一度視線を向けた。
が、やはり腑に落ちない。
『男女の交わり』とは何を示すのか。
と、皆が疑問に思っているのが分かっているのか、如月が再度口を開いた。

「安土城内の風紀が乱れている。節操がないという事です。そういうものは、城の外でやりなさい。それから、女子達。……お前達は、ここに仕事で来ている。無駄な事はするな」

吐き捨てるように言うと、如月はその場を離れようと踵を返した。
が、ああ忘れていたと、足を止め上を見上げた。
そう、彼女は、集まる者達の最大の疑問に答えていなかったのだった。
如月は、吊るされている二人から視線を外すと再び皆の方に身体を向けた。
その真正面には政宗が居た。
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