第60章 アナタが笑顔なら 前編
だから、虚が消えたからといってあの部屋に誰かを近づかせるようなことは無かった
皆に近づかないように言っている手前、昼間に堂々と会いにいけるわけもなく、夜中にいつも会いに行っていた
そして徐々に、本当に徐々に…紫苑に異変が出始めた
「紫苑…紫苑っ」
「ん…うぅ……やめ…」
「紫苑!起きて!」
ハッと目を開けた紫苑が見たのは
「お父様…お母様…」
「また、うなされていたわ…」
「大丈夫か…紫苑」
少し呼吸を落ち着けて、水を飲み
「うん、大丈夫…」
こんなことが、度々続いた
そして紫苑も琴乃ちゃんも大きくなり、2人揃って霊術院の入学試験を受けた
「お父様!お母様見て!入学許可証が届いたの」
「本当か!おめでとう」
「琴乃も一緒なの!良かった」
「良く頑張ったわね」
朝一に受け取った許可証を使用人たちに見せ歩いているらしい
この寒いのに、庭先に出てあの子たちは全く
「菫、冷えるぞ」
「いいの。だってもうすぐ紫苑は此処を出て、霊術院の寮に入ってしまうから…」
此処から通えば良いと言ったのに、本気で頑張りたいからと寮を希望した
庭先に降りる菫を支えるように、遥が後ろに立つ
「菫、あのことだが…」
菫の肩がピクッと反応した
「えぇ、紫苑も霊術院に入学が決まりましたから、そろそろ雪姫に話さなければなりませんね」
「そうだな…」
紫苑は自分の中に虚が居るかもしれないなんて、微塵も感じていない
知らないままのほうが良いのか…
それとも…
だからといって、どうすれば良いかわからない
だけど、悪夢を見る回数は、本当に少しずつだけど増えている
「昨晩も紫苑は、うなされていたわ。これ以上中のモノが大きくならないと良いけど…」
「大丈夫…雪姫がいる」
「私のせいで…っ」
「菫だけのせいじゃない…」
パキッ
木の上で音が鳴った
「誰かいるの!?」
菫は、音のした木の上を凝視していた
「お母様?どうしたの?」
「いいえ、気のせいだったのかもしれませんね」
「そう…なら良いけど」
「紫苑、後で話しがあります」
「は、はい」