第1章 惟任恋記
~夏草や 兵(つわもの)どもが 夢のあと~
時の下った戦国の世、戦乱の真っ最中に呑気な声が聞こえた
「誰か馬の乗りかたを教えて下さい」
雲ひとつ無い晴天の昼下がり
皆が集まっている広間での声が響いた
「はぁぁ、色気のない提案だね。
もっと姫らしい事に興味持ったら?」
「 うっ、家康。どうせ色気の欠片も無いですよ。それを私に求めないで。」
最近では城の外へのお使いも任される様になったのだが、 城下に下りて町までの距離はあまりにも遠いのでやはり馬に乗れたら楽だなと思っていた
「俺がみっちり手取り足取り指南してやろうか?なんなら俺が馬になってやるぞ」
「さり気なくセクハラだよ、政宗。」
「ならば俺が教えてやろうか?」
意外な人から声をかけられ、思わずにビックリして固まってしまう
武辺者の多い織田家臣団の中で珍しく文化事に才の秀ひいでた人物
里村紹巴や細川藤孝など一流の文化人達と連歌を行い、公家や朝廷とも深い繋がりを持てるほどの知識人でありながら、鉄砲に薙刀、剣術までも見事にこなせる、まさに文武両道とはこの男を表すのに相応しい言葉だ
「感激して感謝の言葉も出ないのか? ほら行くぞ。」
いつも忙しそうにしてるくせに、こうやっていつも私を気づかってくれる
からかって意地悪な事ばかり言うのに、その態度はいつも優しかった
そんな光秀さんをいつしか目で追うようになり、恋心を抱く様になるには時間はかからなかった
この人を好きになっては行けないと分かってるのに、つい小さな優しさに心が震えてしまう
「ちょっと、待って下さい光秀さんっ」
早足で歩く光秀さんの背中を追いかけて広間を出て行った