第8章 《エルヴィン》堕ちる2 ※
髪を撫でていた指がこめかみから輪郭を伝い唇をなぞった。
見つめる碧い瞳が、唇の上を這う指が、
“言ってしまいなさい”
そう言っているように見えた。
「ん…はぁっ、ぅ…ぁ…あ…」
「ゆっくりでいいよ。」
「あ…あ……、わ…」
「うん?」
「さ…さわっ、て…」
乱れた呼吸音に混じって絞り出された消え入りそうな声。
目から落ちた一粒の涙がエルヴィンの手を濡らした。
「欲しいのか?俺のことが。」
「…しい……ほし、い…」
頬を濡らした線を拭う大きな手に、震える手がおずおずと重なる。
そしてその手が捕らえられ、ゆっくりベッドに押さえつけられた。
「やっと君から言ってくれた…ずっと待ってたんだよ、その言葉を。」
その時、エマの中で何かが音を立てて崩れた。
この一週間嫌悪と憎悪しか感じなかったのに、今込み上げてくるこの気持ちは全然そんなのとはかけ離れている。
「える……びん…」
胸がいっぱいで、気が付いたら声帯が勝手に震えていた。
彼の名前を呼んだのが分かったのは、目の前で嬉しそうに“名前も初めて呼んでくれた”と言うエルヴィンを見たから。
「エマを愛してる……俺を受け入れてくれるか?」
透き通った瞳に自分を映して、エマはまた涙を一筋流して頷いた。
もう、分からなかった。
どうして自分からエルヴィンを求めたのかも、求めたのはエルヴィンの身体なのか、エルヴィン全てなのかも。
ただひとつ分かるのは、エルヴィンにキスして欲しい、触れて欲しい、エルヴィンと繋がりたいと心の底から願いにも似た思いが溢れて止まらないということ。
「んぁあ゛っ!!」
「はっ…ここは完全に私の形になったな。ぴったりと合う。」
胎内に熱が埋まり、また涙が零れる。
でも今までみたいに怖いからとか、悲しいからじゃない。
頭のてっぺんまで痺れるような快感を感じながら、胸に広がるのは温かさだ。
そしてまた込み上げる。
「あ゛っん!ああ゛っ!ん゛あっ!」
「っ……気持ちいな、エマ…すごく、幸せだ…」
「あ゛!え゛るっ!えるびぁあ゛あ゛っ!」
「もっと名前を呼んでくれ、エマ…」
「っえるびん !え、るびん゛ぁぅ゛っ!」
「エマ…好きだ、愛してる」