第26章 外伝
「夢野さんのせいにしないで欲しい。君自身の問題だろ」
「…うっ」
相当悔しかったのか図星だったのか、短く呻いて彼女は俺に向かって拳を振り上げてきた。感情的な動作は簡単に読み取れる。軽くかわすと俺は廊下の角に飾ってあった花瓶を掴み、中身をぶちまけてやろうと振りかざした。
彼女の顔が恐怖に歪んだのが見えた。
次の瞬間には、俺は檜佐木副隊長に花瓶の水を浴びせていた。
「え…?」
副隊長は首の辺りから胸元にかけて水浸しになり、おまけに活けてあった花まで体にくっついていた。彼女を庇うため、割って入ったのだ。
「檜佐木副隊長…申し訳ありません!」
「…あのなぁ」
俺が頭を下げると、副隊長はやや呆れた口ぶりで告げてくる。
「謝るんなら彼女に謝れ」
その言葉が俺の心臓に突き刺さる。
俺は…何をしてるんだろう。
「…副隊長、すみません!あたしのためにこんな…っ」
すぐにタオルを用意してきて、檜佐木副隊長の体を拭き始める彼女の姿に苛立ちが募った。そして、それを受け入れる副隊長にも。
どうしてなんだ。先に手を出したのは向こうだ。
そりゃあ俺もやり過ぎたのは認める。だがそもそも彼女が、夢野さんへのつまらない行動に出なければこんな事には…
自分だけが悪者扱いされた気がして納得いかなかった。
◇ tragedy ◇
檜佐木副隊長のあとについて副隊長室へやって来た。あたしのせいで水を被ったんだから、世話を焼くのは当然だ。
傍へ寄ろうとすると、着替えのためいきなり脱ぎ始めた副隊長にあたしは顔が真っ赤になっていたと思う。引き締まった上半身に見とれていると、こちらに視線が送られる。
「怪我はないか?」
自分の心配をしてくれる副隊長に胸がときめいた。
「騒ぎの原因は何だ?」
手紙のくだりは言えない。省略して事の顛末を聞かせようとした。
「突然さっきの知らない隊士が訪ねて来て、あたしはただ、話を聞いてただけで…」
「…お前はただ立ってただけで、水ぶっかけられたって言うのか」
一瞬場がしんと静まる。
話に虚偽があると疑ったような副隊長の言い回しに、焦って付け足す。