第17章 それぞれの想い
「萌を危険な任務につけるな、だって?」
雨乾堂から二人の隊長の話し合う声が漏れていた。
「…それはもう無理だ。彼女は既に上位席官だぞ。実力も伴っている。戦地に送らなければ隊に示しがつかん」
溜め息の後、再び問い掛ける声が続く。
「お前朽木の時だって…そんな事気にかけるくらいなら何故」
「だから私の元に置こうと考えた。傍にいれば守れると。だが兄はそれを拒んだ」
「…護廷隊にいる以上、多少の危険は免れん。俺自身がこのザマで心配なのは分かるが、あいつらは海燕の遺志を継いでいる……信じてやりたいんだ」
萌は執務室で一人机に向かい事務処理をしていた。今日は朝から白哉が雨乾堂を訪れ、浮竹と何やら話し込んでいる。
白哉が帰るまでは呼ばれても対応出来るようにと、執務室内での仕事をさばく。ひと区切りして窓の外を眺めながら、萌はぼんやりと先日の阿近との会話を思い出していた。
「ああそれ、阿散井と修兵らしいぜ。聞いてないのか」
それはこの間の広場での騒動についてだった。聞きかじった噂を阿近に尋ねてみた時のことだ。
「何だか喧嘩してたみたいだぞ。血気盛んなこった、若さだな」
羨むようにしみじみと続ける阿近の話に驚き、同時に心配になる。
「大丈夫だったの?怪我とかは…」
「知らん」
マイペースに煙草をくゆらす阿近からは、それ以上詳しい事情は聞けなかった。
白哉が帰った後、萌は訓練場で隊の編成を見たり模擬演習に参加したりと充実した時間を過ごした。その道場からの帰り道で乱菊と京楽に遭遇した。
「あら、萌ちゃん!」
「京楽隊長、乱菊さん、お疲れ様です」
「浮竹が心配してたよ~、萌ちゃんに何かあったら、ってね」
浮竹に会ったのか、京楽は意味深長な顔つきを向けてくる。
「朽木隊長に盗られないように、浮竹必死なんだぞ~」
「あたしはどこにも行きません…浮竹隊長の傍にいます」
京楽の表情の意図する事は分からなかったが、自分の中ではっきりしている事を素直に答えた。するといきなり、京楽が感極まったようにがばっと抱き着いてくる。