第11章 技局にて
「おう、丁度いいところに来たな。お前も茶飲んでけよ」
所用で出た帰りに差し入れを持って技局に寄ると、阿近が扉から顔を覗かせた。その口ぶりからしてどうやら来客中らしい。
局内に入って足が止まる。阿近の相手をしていたのは修兵だった。予想外の遭遇に驚きつつも、お辞儀をして平静を装う。
「お、萌ちゃん」
修兵も少し驚いた表情を見せたが、すぐに普段通りの様子に戻った。
気恥ずかしさを感じているのは自分だけなのかと、彼の変わらぬ態度に気落ちする。そんな思いを悟られないよう振り払い、萌は明るく切り出した。
「お仕事中でしたか?」
「や、ちょっと息抜きにな」
「つまりサボりだ」
「そんなにはっきりと言っちゃいます?」
修兵と阿近は仲が良いらしく、楽しそうなやり取りが続く。その会話を聞いているとつまらない不安が溶けていくようだった。
「義骸はやっぱ女モン作ってるほうが断然楽しいよ。自分のこだわりを注入出来るし」
「阿近さんが言うとなーんか怪しいというかやらしいというか」
「お前に言われたかぁねえな」
萌が持参した差し入れを用意しているうちに、二人はどうやら女性についての議論を交わし始めたようだ。
「俺は真っ当に生きてますよ、ヘンな趣味嗜好はないです」
「俺は、ってどういう意味だ、こっちだってないぞ。そういうお前の好みはどんななんだよ?」
「え、俺は…好きになった子が好みなんで…」
「オレは優しい性格に加えて、やっぱり豊満なのが良いなァ」
「人に聞いといてスルー、しかも結局外見じゃないすか」
「おい、夢野」
二人の話を聞きながらお茶のおかわりを煎れて配っているなか、ふいに阿近に手招きされ傍へ寄ると。
「もうちょいだな。もっと飯食えよ」
突然阿近に死覇装の胸元をぐいと引っ張られる。意表を突かれ反応が遅れてしまった。胸が見えそうになり途端に恥ずかしさで顔から火が出そうになった。横で修兵も赤面している。
「や…ッ」
「ちょっ…阿近さんそれ犯罪!」
修兵が声を上げたのとほぼ同時に、萌は持っていたお盆で反射的に阿近の頬をひっぱたいてしまった。