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約束

第1章 約束


 斗の町付近にパオが張られ、皆のくつろぎの時間が訪れていた。

「深栗、その剣の使い心地どうだ?」
「……悪くない」

 町で買い替えた武器を見せ合う月白と深栗。その会話が聞こえてきて、あたしはふと夕飯の後片付けの手を止める。
 最近の月白は何だか、昔の月白じゃないみたい。剣技も磨かれてどんどん強くなってるし、町で情報収集も積極的にやって旅の役に立ってるし。昔よりもさらに頼もしくなった。
 それはすごい事だけど、何だろ…不安なのかも。あたしばっかり置いてきぼりで。月白の存在が遠くなっていく気がする…


「なあ月白、明日は神仙の洞窟だっけか?」
「ああ。この大陸の魔物は結構強いからなぁ」
「気合いを入れてかからないといけないね」

 そろそろ就寝時刻だが、紅や白銀と次の目的地の話をしながら月白は準備に余念がない様子だ。

「んじゃ、早く寝ないとだなァ」
「まだ早いんじゃないですか?僕は防具の手入れをしてきます」
「ボウズのくせに夜更かしすんなー」
「うるさいですよ、ダメ王子」

 紅と海松のいつもの掛け合いも聞こえてくる。
 それぞれが思い思いの過ごし方で明日を待つ。そんな日常の光景のなか、あたしだけが浮いている気分になってしまった。
 こんなんじゃダメ。分かってる。ちょっと不安になっただけだから…

「…月白…」

 ようやく一人になった月白に呼び掛けた。が、彼はこちらに気付かずパオを出て行こうとする。

「じゃあ俺は少し修業でもするか…」
「月白っ…!」

 あたしは夢中でその背中を追い、彼の服の裾を掴んでいた。

「…わっ、何だ?」
「待って……置いてかないで…っ」

 外まで追いかけて来たあたしに驚いた視線をよこす月白。

「どした?急に…」

 問いかけに答えたくても感情が上手く言葉にならず、あたしは俯く。すると頭上で小さく吹き出す声がした。

「なに笑って…」

 月白の反応に少し言い返そうと顔を上げるが、彼の表情は穏やかだった。

「だってお前、迷子の子供みたいに」

 裾を掴みっぱなしのあたしを見て月白は苦笑する。夢中で自分でも気が付かなかった。恥ずかしさに頬が赤くなる。

「…バカだな、置いていきやしないよ」

 諭すような優しい口調で彼は告げると、こちらに腕を伸ばしゆっくりと抱きしめてきた。












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