第5章 千夢(新人女優)
その後、私ははめを外して飲みすぎてしまった。
「全然お酒強くないね…」
「ひゃい…今日はもう台本あわせ、無理なんで、少し休んだら帰ります…」
「ふふ、やっぱり、君面白いね」
急に身体がふわっと持ち上がる。
千さんが私を、お姫様抱っこでベッドに運ぶ。
そのまま立ち去ろうとする、千さんの手を引いた。
「…千さん、キスシーン練習しましょう」
「良いけど?」
そう言うと、意図も簡単にキスをした。
「今のは演技のキスですか…?」
「うん、まあ、そうね」
「……嫌です。」
「ん?」
「私、千さんと本気のキスしたい」
「ふ、そうね…じゃあ、僕を本気にさせて?」
頬杖ついて、余裕たっぷりに言う。
かっとなって、千さんを押し倒し、組敷く。
自分から、噛みつくようなキスをした。
「はは、ずいぶん荒っぽいんだ?」
「ゆ、千さん…!もう私、千さんが好きなんです、ファンじゃなくて、本当に」
「そうね、それは、とっくに気付いてたよ。…それより、もっと気持ちいいキス教えてあげようか?」
千さんは、私を優しく抱きしめる。
深いけど優しくて、宣言どおり気持ちいいキスに胸の奥が痺れた。
スルリと、着ているものを脱がされ、千さんの綺麗な手が私の身体を這う。
その、所作全て洗練され無駄なく、十分に、酔わせてくれる。
敏感な場所を探られ、その後、千さんも裸になる。
綺麗な身体、細いけれど、筋肉が引き締まっている。素肌あわせて、たぶん一夜限りだと頭の隅で思いながら、身も心も千さん一色になったのだった。
翌朝、千さんは何事もなかったように、朝ご飯を準備してくれた。
(ああ、やっぱり…酔った勢いのワンナイトラブだよね…そりゃ…)
「ねえ、今日のキスシーン、もう余裕でしょ」
「そ、そんなこと…って千さん、もしかして昨夜のことは役づくりの為ですか…!?」
「君、本当に、バカなの?さすがに、そこまでするわけないでしょ」
「え…」
「そうね、僕も君といると楽しいから、付き合ってみる?本気で」
真っ直ぐにみて、優しく微笑んだ。
「ゆ、千さ~ん!」
嬉しくて、ボロボロ涙がこぼれ落ちる。
「ほら、泣かない、泣かない、今日も撮影あるんだから」
優しく抱きしめて、ポンポンと背中を叩いてくれる。千さんの腕の中、暖かくてほっとする。
ドラマのキスシーンは、本気で幸せなシーンになったのだった。