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【FHQ】勇者の物語

第12章 治療と強化と邂逅


その答えは店の人から得られた。

「こんな古い鎧、買い換えた方が安いよ!」

口ではそういうが、本心は別にありそうな目だ。
シワの濃い老人を俺は見つめて、腹の中を探ろうかと思ったがやめた。

直せないならこのままでいい。

「じゃあベルトだけ変えてください。締まりが悪いので」

老人はさらに何か言おうとしたが、口をつぐんだ。周囲の目を気にしている様子がある。

老人は渋々といった風に鎧を手に取り、「10分ぐらいだ」と言って店の奥に入っていった。

それを見届けた直後、誰かに首根っこを捕まえられて棚の端っこに引き摺り込まれた。
イワイズミさんだ。

「アホかヒナタ! あんな鎧を堂々と渡して! 何かあってからじゃ遅いぞ!」

小声で叫ぶイワイズミさんの目は焦りが滲んでいる。
カゲヤマも近寄って来て言った。

「勇者の剣だけでなく、鎧のことも知らなかったのかよ」

俺はぽかんと口を開けた。
つまり、ヤチさんの宿に置き去られていたあの鎧は、元々は勇者の私物……?

ベストの内ポケットに入れたヤチさんからの餞別のハンカチが、妙な存在感を持つ。

そうか、あの時感じた気配が2つだったのはこれが原因だったのか……。

俺が一人で納得していると、突然イワイズミさんがため息を吐いた。

「カウンターに置いた時、ヒヤヒヤしたんだぞ。売っちまうんじゃないかって」
「売るわけないよ! 大事なもんだし!」

思わずタメ口で反論ししまい、直後に「です」を付け加えた。

イワイズミさんは吹き出すと俺の頭に手を置いた。

「物を大事にするのはいいことだ」

これで会話は終わった。

約10分後、鎧が返ってきた。預けた時よりピカピカになって。
店の人が気を遣って磨いてくれたらしい。

顔が映るくらい綺麗になって返ってきた鎧を早速身につけて微調整する。

全ての工程が終了し、代金を払おうとしたが、店の人は受け取れないと言った。

「珍しいもんを見せてもらった。長生きはするもんだな」



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