第3章 episode2
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その日のメリィは女優でもアイドルでもなくB級のヒーローとして活動していた。
だから今、100階近くあるビルから落下しているのも決してCGとかではなく――…
(ああ、どうしよう 私死んだかもしれない。
他のヒーローの援護はなし、私に飛行能力はなし。
相手は直も追ってきている、コウモリと変質者を足して2で割ったような怪人。
私の落下速度の方が早いからまだちょっともってる、それだけの差―……)
視界に映るのは高速で流れていくビルに青い空、
アイドルと魔法少女を混ぜたような年甲斐もないヒーローコスチュームの端と自分の脚、
それに…バットマンから格好良さを極限まで引いたような怪人が姿を現した。
(攻撃してきたら、もう…防げない。
私の攻撃は射程の外)
あまりに高いビルに、ピンチによって高速で回転する頭、
走馬燈を巡らせるよりも長く現状の確認となんとか手立てを考える冷静さも、無駄である事は理解していた。
(ああもう、やっぱりアマイマスク先輩と一緒に行動してればよかったなぁ。
金魚のフンとか引き立て役とかオマケとかセット販売とか言われても……
それが私の身のほどなんだからさ……)
メリィは何処か諦めて、目を伏せた。
変質者バットマン怪人(仮)が嬉しそうに顔をゆがめ、速度を上げるように体制を整えた。
――しかし、次の瞬間その怪人はバラバラと、細切れになって、ゴミのように、塵のように落ちていく。
メリィはそれを見ていなかった。
気付いた時には落ちる重力を感じず、しっかりと抱き留められている。
(ああ、これが、これがヒーローなんだ)
目を開けずともわかる。
ピンチに助けてくれる、これが本当のヒーローというものなのだ、と。
「アマイマスク…先輩?」