第14章 おとぎのくにの 6

「………知ってた？」

過去形で話し、全く驚いた様子のない母上。

何かおかしくないか？

「今日知った訳ではなく？」
「そうよ。サトちゃんたちがまだ小さい時に公爵夫人から聞いたもの」

違和感を感じて確認すると、母上はまたあっさりと答えた。

その事実に愕然とする。

母上はサトが男だと知っていて俺と婚約させたと言うのか…？

「私も娘が欲しかったから羨ましくて…でもその話を聞いた時にはあなたたちは王子としてお披露目を済ませてしまっていたのよね…」

母上はショックを受ける俺にはお構いなしに話を続ける。

「もう少し早く聞いていれば、あなたたちを娘として育てることも出来たのに…本当に残念だわ…」

心底残念そうに呟く母上にゾッとした。

こんな非常識なことが、自分たちの身に起こっていたかもしれないことに衝撃を受ける。

そして初めて自分の身に置き換えて考えてみた。

例えば俺が、ある日突然お前は女だと言われたら？

生まれてからずっと男だと信じて生きてきたのに、それが嘘だったら…？

自分の意思なんか関係なく性別を偽られて。
周りを嘘で塗り固められて。

ある日突然事実を突きつけられて。

今までの自分を全て否定されるようなものだ。

きっとそんなの信じられない。
すぐには現実を受け入れられないだろう。

何を信じていいのか分からなくて。
誰を信じていいのかも分からなくて。

それはどれほどの恐怖だろう。

でも、そんな恐ろしいことがサトたちには実際に起こったんだ。

サトたちにはこれが現実なんだ。