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初恋の終わる日まで

第2章 嫌われ者の博愛乙女


「愛別ちゃんは嫌われ者の苛められっ子なんですね」
放課後、俺の頬に湿布を貼ってくれながら、ヒミちゃんは容赦無く無慈悲な現実を突き付けてくる。因みに「ヒミちゃん」という呼び名は、彼女自身から「お友だちはカァイイ呼び名をつけ合うのです」と言われ、幾つかの案から採用されたものだ。俺が「愛別ちゃん」そのままなのは、俺自身が恥ずかしいからと言う理由でちゃん付けまでで勘弁してもらった。これがもし「チカちゃん」なんて呼ばれたら、恥ずかしさで破裂してしまうかもしれない。
「ヒミちゃんは正直者だな。確かに俺は嫌われ者の苛められっ子だけど……俺もあいつらが嫌いで、苛められたところでチマチマと復讐をし返してるから、感情戦としてはドローだよ。敗者のままじゃないのが俺のプライドだ」
「そっかぁ」
俺の言い訳に対して、ヒミちゃんは揶揄いも応援もせず、ただ「そっかぁ」と笑ってくれる。年上の女の子に適当な返事で流されている感もあるけれど、俺にとっては此の距離感が心地良かった。湿布を貼り終わったヒミちゃんに、俺はお菓子を差し出す。指先に湿布の匂いが残っているので、彼女は俺の手ずからクッキーやグミを食べる。もこもこと頬を膨らますヒミちゃんは栗鼠のようで、彼女の言葉を借りるならとても「カァイイ」女の子だ。
「ヒミちゃん、美味い?」
「美味しい。……ねぇ、愛別ちゃん。嫌うことでドローになるなら、私はずっと負けてるね」
唐突に向けられた言葉に、俺は驚き、そうして狼狽えてしまった。俺の言葉が、何かヒミちゃんの琴線に触ってしまったのだろうか。オロオロとする俺に、ヒミちゃんはまた聖母みたいな笑みを浮かべて、俺の頭を抱き締めた。
「うおっ、ひ、ヒミちゃん……?」
「大丈夫ですよ、愛別ちゃん。ヒミちゃんは怒ってません。……ただ、私は皆が好きなのに、皆は私が嫌いなんです」
それは嘘でも悪口でも謙遜でも自己嫌悪でもなくて、ただただ私の形を作っている真実なのです。そう断言するヒミちゃんの声はからりと明るく乾いていて。けれどもどこかひんやりと、哀しい冷たさを孕んでいた。
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