第5章 東峰旭
「飲みすぎたか」
こめかみを押さえながら自宅の鍵を取り出す。
ドアを開ければ差し込む光に君の存在を感じて安堵する自分が、つくづくヘナチョコだと思う。
「おかえり」
「ただいま」
ソファーで寛ぎながら笑う彼女に“ただいま”という瞬間が一番好きだ。
今すぐしたい唇へのキスは我慢して額へキスをする。
一緒に住んで慣れた夫婦なら帰った途端の貪るようなキスはしないはずだから。
「今日はこないと思ってた」
「うん、暫く会えなくなるからさ」
「そうだよな。プレゼントは買ったのか?」
「うん・・」
明日は旦那さんの誕生日で、土日に重なるからと家族旅行にでかけるそうだ。自分の予定は携帯のリマインダーに助けてもらう癖に彼女の予定だけは頭に刻み込まれている。
サービス業の彼女が仕事帰りに立ち寄る、週1しかない俺たちの時間が土曜日だった。
次会えるのは再来週、来週は子供の行事があるって言っていた。
「今日は大丈夫なのか、来てさ・・」
「大丈夫、上手く言っているから」
笑いながら俺のジャケットを慣れた手つきでハンガーにかけるのは、彼女なりの罪滅ぼしだろうか。
「プレゼント何買ったんだ?」
「うーん、財布かな。いいじゃん別に」
首に手をかけ身体を密着させるのはこれから濃密な時間を過ごす合図だけれど、今日は乗り気じゃない。
「ちゃんと、良い誕生日にしてやれよ・・」
罪悪感が俺にそう言わせた。
本当は奪ってやりたいと思っているくせに、良い人ぶる自分が堪らなく嫌だ。
「旭は誕生日何欲しい?ずっと先だけどさ」
覚ったのか俺から離れて聞く。“欲しいもの”なんて3年前からずっと1つだよ。