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アフタヌーンティーはモリエールにて

第8章 月夜のティラミス


萩原とそんなやり取りがあった、数日後。
松田は休日を利用して、杯戸町にある図書館を訪れていた。

お盆休みに入り、一層世間が騒がしくなった所為で、ここ最近は本来の業務とは別に、警備やら何やら駆り出され、疲弊していて。ようやく休みの日になり、久しぶりに読書をしに少し足を伸ばしたのだ。

松田は警察学校時代の友人の影響もあり、本を読むのは好きなほうである。ただ、あまり部屋にものを置きたくない質で、わざわざ購入することは少ない。
それでも時折、今日のように読書に耽りたくなることも、ままある。そういう時は、こうして図書館に訪れるのだ。

この当たりで一際大きく、それに見合った貯蔵量を誇るこの図書館は、お盆というのに、いつもにくらべ席が埋まっている。
読書感想文やレポートなど、夏休みに大量に出される課題を、こなしている学生を中心に、多くの人間が机や本と向き合っていた。静かで空調も効いていて、尚且つすぐに調べもののできる図書館は、集中するのに持ってこいの環境といえる。

図書館に足を踏み入れた松田は、さっそくお目当ての本たちの並ぶ棚へと入った。ミステリーや推理ものの小説が著者名順に立ち並ぶその中から、一冊を手に取る。

先日モリエールへ訪れたときに、杏奈が薦めてきたものだ。なんでも伏線の張り方と、トリックはもちろん、犯人の殺害動機が秀逸なのだとか。

目当ての本を手に、席へと向かう松田は、ふと見知った顔を見かけたような気がして、足を止める。
視線をさまよわせると、そこにはやはり見知った顔が。

松田は席へと向けていたつま先を、その人物のいるほうへと向ける。
件の人物は、接近する松田に気付いていないのか、手元に取ったものを開き、考えるような顔をして視線を走らせていた。


「殺すならやっぱり毒……苦しむ顔も見れるし。できる限り長く苦しむ毒薬は……。」
「殺人未遂の疑いで、署までご同行願います。」


手元の資料を見ながらブツブツと恐ろしい言葉をこぼすその人物に、松田はそう声をかけた。
声をかけられた人物は、バッと勢いよく手元の資料から顔をあげた。
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