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アフタヌーンティーはモリエールにて

第6章 夢見心地のマドレーヌ


その兄の様子が気に食わず、思わず顔をしかめる杏奈。
何か言いたいことがあるなら言えと、視線で言う杏奈に、兄はふっと優しく微笑んだ。


「まぁ、俺はいいと思うけどねー。」


にこにこと優しく微笑み、意味深なことを言う兄に、杏奈はますます顔をしかめる。
しかし兄はそれだけ言うと、うんうんと頷いて、リビングへと姿を消してしまった。

その場にひとり取り残された杏奈は、意味がわからない…と心の中でつぶやいて、自室のある二階へと上がる。
自室に入った杏奈は、鞄を元の位置に置いて、部屋着に着替えるために、制服へと手をかけた。


「タバコの匂い……。」


サマーセーターを脱いだところで、微かに香った甘く煙たい匂い。
それはあのとき、松田に抱きよせられたときに、強く感じた香りだ。

一瞬にしてそのとき一緒に感じた、手の感触や熱まで想起してしまって。

意外と優しいんだよねぇ。松田さんって。
引き寄せかたは乱暴に見えたが、その理由も、肩に触れた手も優しいものだった。何より、駅方向とは反対側にある杏奈の自宅まで、松田はわざわざ遠回りして送ってくれた。そして、最後に杏奈の頭に触れた手も。
無意識に杏奈の手が、最後に松田に触れられた頭にのびる。

分かりにくい松田の優しさを思い出していると、ムズムズとした何ともいえない感覚が、沸き起こる。
身体を苛む何ともいえないむず痒いような感覚に、杏奈は頭に触れていた手を下ろすと、ふるふると頭を振って思考を振り払う。

着替えを再開して、落ち着いた頃には、その感覚もすっかり無くなり、寝床につく頃には松田とのことなど、すっかり忘れていつも通りすぐに眠りに落ちた。

その夜、杏奈は夢を見た。

いつもアルバイトをしているモリエールで、松田とはなす夢だ。
杏奈はモリエールの制服ではなく、松田はスーツにサングラスといういつも通りの格好で。同じテーブルに向かい合い、座っている。

会話の内容まではわからないが、ふたりはとても楽しそうで。
あたたかい空気が、ふたりを包み込んでいた。





ーー 夢見心地のマドレーヌ ーー
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