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アフタヌーンティーはモリエールにて

第6章 夢見心地のマドレーヌ


夏の太陽もすっかり大人しくなってきた夕暮れ時。
本日も変わらずのんびりと営業中のモリエールには、夕飯に近い時間帯ということもあり、近所に住む常連客の姿がぽつりぽつりと点在しているだけだった。

この時間帯になると客足は遠のき、来店を告げるベルが声をあげることもない。
店内に流れる穏やかなBGMに耳を傾けながら、自分で淹れた紅茶を飲む杏奈に、店長である森が声をかける。


「そろそろ閉店の準備に入りましょう。」


今日はもうお客さまも来ないでしょうと、長年この場所に店を構えて培われた経験則から、森がそう告げる。彼がそう言うならば、今日はもう誰もこないのだろうと、杏奈は、はーいと返事をして、のんびりと閉店準備に動き出した。

誰もいないテーブルにある、コーヒーシュガーなどの調味料を全て回収して、布巾で角や辺まで丁寧に拭いていく。足元を確認して、ゴミなどが見当たれば、それも拾った。

あとは今いるお客が返ってから、テーブルの上を片付けて、床を掃除すれば、まもなく閉店できるだろうと、回収したメニュー表の束を整えて、指定の場所に閉まっていると、カランコロンとドアベルが来店を告げる。どうやら、珍しく森の予測が外れたようだ。


「いらっしゃいませー……って、松田さんじゃあないですかぁ。」


閉店準備をはじめた店に訪れたお客を確認すると、スーツ姿にサングラスをかけた、仕事のある日の松田が立っていた。
仕事帰りであろう松田に、お疲れさまでーすと杏奈が近寄ると、おうと松田は片手をあげて応える。

仕事終わりの一杯を飲みにやってきたのだろう。しかし、杏奈は言わなくてはならないことがある。


「せっかくご来店いただいたのに申し訳ないのですが、もう閉店の準備に入ってしまってですねぇ……。」


申し訳なさそうに告げる杏奈に、松田はそうなのかとあっさりと返す。もし可能ならば、コーヒーの一杯でも飲みたかったところだが、既に閉店準備にはいってしまっているのならば仕方がない。

お店の迷惑になると、松田はまた来るわと背中を向けた。
しかしそこに、構いませんよと、店長である森の穏やかながかかる。
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