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アフタヌーンティーはモリエールにて

第10章 チャイの香りと共に飲み込んで


「いつもと違う、女性が好んでつかうシャンプーとボディーソープの香りがしたんです。」


たばことアルコールの香りにまぎれて香ったのは、甘やかでフローラルな香り。
普段、松田や萩原から感じる、スッキリとした香りとは違う、女性的な香りだった。使う銘柄を変えただけと考えるには、それはあまりにも松田に似つかわしくない。松田が絶対に選びそうにもないもので。

だから杏奈は、松田が女性とシャワーを浴びるようなことをしたのだと思い"ほどほどに"なんて、揶揄い混じりに言ったのだ。松田はそれには気付いていないようだったけれど。

それに…と、杏奈はチャイの注がれたティーカップの縁を、優しく指先でなぞる。


「松田さん……最近、あたま撫でてこないんですよねぇ。」


図書館であったその日、杏奈の自宅まで送り届けたあの夜を最後に、松田が杏奈の頭を撫でることはなくなっていた。

顔面を鷲掴みにされたり、背中をたたかれたり、軽く足で小突かれることは、相変わらず。
なのに、松田はあれから一度も杏奈の頭に触れていない。

手をあげたと思っても、額を小突かれたり、頬や鼻をつままれるばかりで、頭には絶対に触れてこなかった。それはもう、違和感を覚えるほどに。


「だから松田さんにカノジョさんができて、そのひとに申し訳ないとか、らしくもないことを考えているのかなぁ…と。」


松田に大切な人ができて、その女性を想って、むやみやたらに異性に触れないようにと、そう考えての行動ならば、納得ができると、杏奈は思ったのだ。

彼女の説明を一通り聞いて、松田にカノジョねぇ…と萩原は考える。

そもそも松田のやつ、最近は特定の相手はいなかったはずだしなぁ。
班は違えど同じ職場に勤務し、結構な頻度でふたりで酒を酌み交わす機会も多い。酒の肴として、恋愛関係の話しもぽつぽつ零れる。しかしここ最近、松田の口から特手の相手ができた話は、出ていない。

また大して知りもしない女と、ヤったってとこだろうなぁ。
アルコールが入れば、自然と下世話な話題もでてくるもの。萩原は頻繁ではないにしろ、松田が不特定多数の女性と身体を重ねていることも把握してる。
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