第8章 迷いの先にあるもの
季節はあっという間に過ぎてロシアも遅い春を迎えていた。
「つ、疲れた…。」
「大丈夫?ゆめ。」
「はい。でも正直ここまでハードだとは思いませんでした…。」
「そうだよね。
でも無事全部決まって発注もできたし、良かったよ。」
ここはロシアのシェレメーチエヴォ国際空港。12時間弱のフライトを終え、ようやく帰ってきた。
時差は2時間くらいなので、ほとんど苦にならなかったけど、ハードなスケジュールで、もうクタクタだ。
「ディミトリーはいつもこれを一人でこなしてたんですよね。
ほんっとうに尊敬します。」
今日はお店の定休日だからないけど、ディミトリーは買い付けの後、そのままケロリとした顔でお店に出勤したりするのだ。
「あはは。慣れだよ。
お疲れ様。今日一日ゆっくり休んでね。」
「はい…。お疲れ様でした。」
フラフラになりながら重い足取りで家に帰り着き、荷物もそのままにソファに倒れ込む。
今日は水曜日なので、日々人は仕事だ。
お水が飲みたくてキッチンに向かうとダイニングのテーブルに紙切れが置いてある。
見ると『ゆめ、おかえり。今日はなるべく早く帰るから、ごはん食べに行こう。』と日々人からの手紙だった。
ただいま、と呟く。
早く帰ってこないかなぁ。
会いたい。早く会ってあの逞しい腕にギュッとされたい。
でも今はまだ、午前の11時。
昨日は飛行機泊だったので、お風呂に入りたくなってバスタブにお湯を溜める。
チャプンと温かいお風呂に浸かると、シュワシュワと疲れが取れていく気がする。
目を閉じて、ベルギーでのことを思い出す。
素敵な空間。おしゃれな人たち。可愛い洋服たち。
難しいけど、やりがいのある買い付け。おしゃれな街並み。
大変だけど、すごくすごく楽しかった。面白かった。
また、行きたいな。
部屋着に着替えて髪を乾かして、即席のスープとパンで簡単に昼食をとってから、ベッドに潜り込み仮眠をとる。
あ。日々人の匂い。
日々人の匂いに包まれて、安心感で一気に眠りに引き込まれる。