第1章 ヘリオトロープ 《切原赤也 R18》
「赤也くん、赤也くん」
肩で切り揃えられたセミロングの黒髪をゆらゆらと揺らしながら、は彼氏である切原赤也をフェンス越しで控え目な声で呼んだ。
「ンぁ?どうしたんだよ、」
「次が赤也くんの試合ですね、頑張ってください!」
ファイト!と、愛らしく拳を握って応援する彼女に、ついだらしなく口元が緩みそうになるのを自覚して、慌てて取り繕った。
練習試合を観に来ないか?と誘ったのは3回目のデートの帰り際だった。通っている学校が異なる二人はただでさえ休みが合わせづらい上に、週末は赤也の練習がある都合上、二人で会える機会は極端に少なかった。
まだ付き合い始めたばかりで、あまりガツガツするのはカッコ悪いと思う反面、俺のカッコ良さを一番アピール出来るのはやっぱりテニスをしているときな訳で。練習もこなせてとも会えるなんて一石二鳥だ、と閃いたのだ。
幸いにもはスポーツ観戦を好むタイプで、いざ誘ってみたら満面の笑みでOKしてくれた。
1歳年下のは赤也の事を先輩としても、彼氏としても純粋に慕っていたし、一緒にいる時もの好意がだだ漏れなせいかついつい安心してしまいがちだが、不安の種は尽きない。
それと言うのも、日頃のの生活環境が大きな問題だった。は今年青春学園に入学した1年生で、聞けばあの越前リョーマとはクラスメイトだと言う。
を疑う訳ではないけれど、自分の知らない日頃の彼女を他の男どもが目にしていると思うと素直に面白くないのである。しかし、先輩である自分が他校のましてや後輩に嫉妬しているだなんてには口が裂けても言えない。
そんなこんなで、がもっともっと俺に夢中になるように、今回の作戦を決行するに至ったのだ。
「ソッコーでのしてやるから、ちゃんと観とけよ」
「はい!」