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徒然なるままに【文豪ストレイドッグス】

第11章 板挟み


 部屋に戻った後、わたしは袴と着物を脱いだ。直ぐに包帯を取り、首領に頂いた薬を塗り込む。

「痛……っ!」

 滅茶苦茶滲みる。痛い。背中にも何ヶ所か傷があり、わたしは包帯を取ってそこにも薬を塗った。すると、背中の一部分に大きく目立つ、花の形の痣が見えた。

「……」

 これがわたしの命を蝕むと云う痣か。わたしはさっさと薬を塗り、包帯を巻いてそれを隠した。あまり見ていて気持ちの善い物では無い。
 他の傷にも薬を塗り終え、包帯を巻き直す。何故か部屋に備え付けてあったネグリジェを着て、わたしはベッドにダイブした。

「疲れた……」

 今日一日だけでかなり気力と体力を消耗した気がする。ごろりと仰向けの姿勢になり、天井に向けて手を伸ばした。
 手の甲から二の腕にかけて、ぐるぐると巻かれている包帯。本当に太宰さんにそっくりすぎて、自分でも吃驚する。わたしは伸ばしていた腕を目の上に落とした。

「……会いたい」

 ぽつりと呟いた。

 最初に逃げだした理由は、人殺しのわたしと一緒に居たら皆が危ないと思ったから。そもそも殺人をしたわたしが皆と居る権利なんてない。それにわたしの異能を狙う人達は蛆虫のように湧くだろうと推測出来たし、何よりわたしの為に皆に迷惑をかける訳には行かないと思った。

 でも逃げ出した後、わたしはまた人を殺した。殺されかけたとは言え、殺人には変わりない。
 だから探偵社に戻って欲しいという鏡花ちゃんを突っぱねた。わたしを嫌いになってくれれば戻って来てなんて云わなくなると思ったから。

 その後中也さんにマフィアに誘われた時、正直怖かった。殺人犯のわたしは探偵社には戻れない、其れは判ってた。けれど、もう二度と殺人なんてしたくない。そう思った。
 だから揺らいだ。一人で誰にも頼らず生き抜くのか、それとも罪を償って光に戻ろうとするのか、このまま闇に身を委ねるのか、と。

 でも、あの時のわたしに一人で生きて行く力なんて無くて。人殺しをしたわたしを丸ごと認めて助けてくれたマフィアに縋った。
 強くなる方法を教えてくれる紅葉さんにも、わたしの存在を許してくれる首領にも、光と闇で揺らぐわたしを見つけてくれた中也さんにも感謝している。けれど、それでも偶に思う。

 ──あの時『助けて』の一言が言えたら何か違っていたのかな。

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